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番外編 夏祭りの約束 2-1

 🐺和哉視点です。もやもやじめじめ期の和哉君、高校三年生(笑) (はあ、兄さんやっぱり忘れてる。夏祭り……。今年は僕と行こうって約束してたのに)  金曜日の今夜から、日曜まで。隣り街にある神社では毎年夏祭りの縁日が開かれるのだ。近所に住んでいる癖に和哉が受験生になってから余計に家に寄り付かなくなった柚希が、お盆に久しぶりに家に戻ってくると母から聞き、和哉は当然柚希が去年交わした約束を覚えていてくれたのだと内心喜んでいただけにまるっきり忘れてしまっている様子に失望は大きかった。 (僕は今日を楽しみに、勉強も頑張ってきたっていうのに……)  家族になってからは、夏祭りの三日間のどれかの日には友人とではなく、毎年柚希と二人っきりで行くのが定番だった。柚希への恋心を自覚してからはそれが二人のデートのような心地で臨んでいた和哉にとって、夏休み恒例のメインイベントと言ってよかった。  しかし去年は行こうと約束していた最終日と同じ日付に当たった花火大会に柚希は当時の彼女と出かけて行ってしまったのだ。柚希と祭りに行かなかった年はその年と柚希に初めて彼女ができたあの水族館デートの夏以来だ。あの年は柚希と夏の間中ぎくしゃくしたものだが、その後は夏前に柚希に彼女ができかける気配を察しては旨い具合に夏祭り前にはうまくいかなくなるように仕向けたりもしてきた。  しかし去年は専門学校生になって柚希の行動範囲が広がっていたこともあり、柚希は製菓の学校内で彼女を作ってしまった。例によって『一緒にいると楽しいから付き合ってって言われた』なんて軽い調子で告げてきたのは祭りのちょうど三日前かそこら。直前になって柚希とは祭りに行けないと聞かされ、『和哉、バスケ部の奴らとお祭りいってきたからいいよね?』とか気安く言われたので、和哉はその時かなり機嫌が悪くなってしまって、困り果てた柚希に『来年は必ず二人で行こうね』との約束をさせるまで柚希を許さなかったのだ。  しかし当の柚希は一年後の今日がお祭りであること自体忘れていたらしく、最近わざとなのか疲れていたのか連絡がつかなかったことの恨みも手伝って、和哉の中では沸々と怒りが込み上げてきていた。  夏祭りには母に用意してもらった浴衣を着て出かけるつもりでいたから、そのあたりも伝えておきたかったのに、テスト前辺りから和哉に気を使っているのか母を慮っているのか一向にスマホに出てくれない。しかし和哉に言わせてみたら、電話に出てくれない方が余程気が散る、というか苛々して堪らなくなる。  柚希は冬に当時の彼女と別れてからはフリーのようだが、今まであれほどモテてきた柚希のことだ。ひょっこり新しい恋敵が登場していないとも限らない。ついついスマホの位置情報アプリで柚希の居所を確認してしまい、『ああ今は仕事中』『この街あんまりいかないよな? なんでだ? 誰といるんだよ!?』なんて確認してしまって、志望校がずっとA判定の受験勉強なぞよりずっと柚希のことが気になってストレスがたまっていた。 (もしかしたらって思ったけど、さっきの様子じゃ絶対覚えてない。僕は兄さんの全てが好きだけど、約束してたことを忘れる癖は絶対に直して欲しいんだよね)  しかし生で柚希の顔を見たらやっぱり嬉しくて、ついついにやけてしまいそうになるのが止まらなくなる。 (あー。久々の兄さん。やっぱり可愛い。でもあんなに真っ赤に日焼けしたのは身体に良くないよな。兄さんすごい色白だから、日焼けが火傷みたいになってしまうんだから。母さんがかった日焼け止め毎年渡してたけど今年は渡しそびれたって言ってたから……。よし、今日絶対に渡そう)  それにやはり嬉しいことがあった。久しぶりに兄と並んで立ったら、彼のいつ見ても澄んだ大きな瞳がうるっと少し戸惑い気味に上目遣いになって和哉のことを見上げてきたからだ。正直まだ敦哉に僅かに及ばない背丈や身幅だけれど、ともかく170cm半ばはあるはずの柚希を見おろせるようになったことは大きな成長だ。

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