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番外編 夏祭りの約束 6-1

☆無性にじゃがバタ食べたくなって、小ぶりなじゃがいもレンチンして作って食べました。柚希もジャガイモ大好きです。うまうま~✨  柚希と同じくビールの入ったカップをプラプラと指先でだらしなく持ってはいるが成人しているようだし、酔ってはいそうだが見るからに悪辣な輩といった感じではない。身なりは大学生風で、一見ごく普通の柚希と年頃の近い青年たちだった。 「お兄さん、どっかであったことありますよね?」 「そうだっけ?」  ほろ酔いで気分で頬を上気させ、慣れぬ浴衣の裾も襟も緩んで素肌を晒す無防備な柚希をじろじろと明け透けな視線で上から覗きこんでくるが、しかしどうにもそのにやけた顔に見覚えがないと柚希は小首をかしげた。    これが古典的なナンパだということに柚希がすぐに気がつけなかったのは、自分は男で、相手はもしかしたら地元の知り合いかと思いついつい反応してしまったからだ。この炎天下一日しっかり労働してきた身体に酔いが回るのが早く、判断力が鈍っていたのもいけなかった。  片方の男がどかっと隣に座ってきた時、とろんとした眼差しで相手を見つめたら、急に眼の色が変わったのが分かった。体温が上がってΩのフェロモンが漏れほのかに甘く香っていたのだが、Ωとして未熟な柚希そんな大事なことに気がつけていなかった。 「浴衣、色っぽいね? お兄さんさ、Ωだよね? いい匂いする。綺麗なうなじ、見えてますよ?」    耳元でそう囁かれ首筋に酒臭い息が吹きかかり、すんっと匂いを嗅がれた気がした。ぞわぞわっと悪寒が背中を這い上り、不快感に眉を顰めた柚希が立ち上がるより先に男に肩を強い力で抱かれる。 (気持ち悪!!) 「俺らとこれから飲み行きましょうよ?」  柚希とて中高バスケ部で鍛えた腕っぷしは男であるから、柳眉を吊り上げ男の腕を簡単に振り払おうとした。しかし着慣れぬ浴衣の袖に引っかかり、飲みかけのチューハイのカップが倒れ、逆側に座り込んできた男の足元に飛沫がかかってしまった。サンダルの足元と共に柚希の浴衣も濡れているのが分かって真面目な柚希は反射的に謝罪が口をついてしまった。 「あ、ごめっ……」 「あー、濡れちゃったじゃんか」 「これは責任取って付き合ってもらわないとね? いこっか?」 「……!」  肩をぐいっと掴まれたまま手首まで握られ、立ち上がらせようとしたことに流石にそれとこれとは別と、いらっときて睨みつけるが、ほどほどに酔っぱらっている青年たちは意に介していないようだ。上機嫌のまま二人で柚希を挟み込むようにして、会場を連れ出そうとしたので、下駄をはいた足で踏ん張ろうとするがどうにも力が入らずうまくいかない。   「酔ってるの? それともそういうの全部わざと俺らの事誘ってる? Ωのエッチなお兄さんなんだ?」 (気持ち悪っ! 和哉を巻き込む前に、振り払って逃げないと)  ぐいっと腰を抱かれ顔を近づけられ、柚希はキッと気丈に睨みつけたのだが、あのαの男に後ろ方抱き着かれた時のことや、痴漢に合いかけたこと、追いかけられて巻けたかどうかそんな不安な気持ちが一遍に蘇る。 (苦しい……、気持ち悪い……)  髪の毛がざわざわっと総毛立ち、心臓の辺りがぎゅうっと締め付けられるような苦しさで柚希は俯き呼吸が荒くなった。 「なんかやばいって。調子悪いんじゃないか? うわっ!」  もう一方の男が慌てたような声を上げたその時。  どかっという音と共に柚希の身体を抱えていた男が後ろに突き飛ばされ、驚いたもう一方の男が咎める前に、柚希は袖の上から二の腕を強い力で掴まれ勢いよく引き寄せられた。  抱き寄せてきた人物の身体にかなり勢いよくぶつかり、柚希はまたふらついたが屈強な身体がしっかりと柚希を抱きとめる。鼻先を何故かふわりと香る季節外れの金木犀に似た甘い香りを吸い込めば、安堵感、多幸感が押し寄せ、しかし足元が覚束なくなるほど、一気にくらくらと酔いが強く回る。 「何しやがる!」  色めき立つ男たちの声が背後から聞こえてきたが、柚希の頭は大きな掌に抱えられてくたりと肩に押し付けられて、その姿は見えない。 「はあ? お前らこそなんなんだよ。人の恋人に手ぇ出しやがって!」 (恋人!?)  凄んだ和哉のその声は治安が悪く言葉遣いも荒々しい。腰の辺りにずんっと響くような凄みがあり、まるで見知らぬ男のそれに聞こえた。 (和哉だよね?)  顔を上げて確かめようとした柚希を許さず、和哉は一転、蜜のように甘い声で柚希の赤く染まった耳朶に囁いた。 「僕に合わせて。柚希。いいね?」 「おい!」  突然衝撃がどんっと伝ったのは、柚希を抱きかかえたままの和哉の方の辺りを男が仕返しとばかりにどついてきたからだ。和哉は鍛え上げられた体幹で足の裏に根が生えたようにびくともせず踏みとどまったが、柚希は愛する弟に手出しされたことに一瞬にして酔いが吹きとぶと、頭にかあっと血が登って相手を激しく怒鳴りつけた。 「俺の和哉になにすんだ!」 「柚にい!」  どつかれて腕が緩んだすきに、柚希が和哉の上の中から飛び出して、バスケ部で鍛えたフットワークで渾身の力を込めて男に体当りをすると、不意を突かれた男が「ぐあっ」と呻いて後ろに吹き飛んだ。柚希も男ごとふっとび倒れそうになるのを慌てて和哉が手首を掴み支えていたが、「喧嘩だ!」「なになに?」などと周りに騒ぎが伝わってしまった。 「カズ、逃げるぞ」 「兄さん!」  

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