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第2話 救いの光 3/2
立ち上がって父さんに怒鳴りつけた。撫子の嫁入りを交換条件なんて……。
「撫子がっ撫子が可哀想だっ」
「隼人……」
「須藤さんはいい人だ。撫子だってきっと気に入る。何不自由の無い生活を約束してくれた。我が家が落ち着けば里帰りだってさしてくれると言ってくれているし……撫子に苦労はさせたくない」
玉の輿というやつだろうか。普通の結婚話であればこれほどの好条件はないだろう。
父さんの撫子に苦労をさせたくないという気持ちは痛いほど分かる。
今からの生活がどうなるか分からない不安に晒されるよりも、社長婦人としての華々しい未来に備えるほうがよっぽど幸せだ。それは僕にだって分かる。分かるけど、納得はできない。撫子は大事な妹だ。生まれた時から一緒で海外留学に行くのも僕が最後まで反対していた。
だけど、今のこの状況なら仕方がないことだと理解できる。自分の不安と同じ思いを撫子はしなくて済むのだから。
黙って見つめる父さんに気圧された。この状況の中で一番辛いのは父さんなんだ。家族を大事にしてきた父さんが反対なのは一番分かる。必死に決心したことを僕が揺るがすわけにはいかない。
「撫子が……撫子が納得しているなら……」
ため息を付いてソファーに座りなおした。
「納得なんてしないわよ」
「「え?」」
リビングに響く聞き覚えのある声にみんなが顔を上げた。
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