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第4話 妙案 2/4
撫子達はすぐに渡米した。
僕は『撫子』になるために化粧の仕方、ウィッグのつけ方、掃除、洗濯、炊事を教えられた。だけど付け焼刃ではどうにもならないことの方が多く、「行ってから花嫁修業させられるんだし、大丈夫よ」と母さんは笑った。
化粧はほんの少しだけ。ウィッグさえつければ全くの女の子だ。分かってはいたものの現実を叩きつけられると凹む。
午後には須藤さんが迎えに来る。実家に帰るはずだった母さんは借金を須藤さんが肩代わりしてくれたおかげでこのまま家にいられることになった。
『私のご両親にもなるのですから』と須藤さんは快く肩代わりを申し出たらしい。父さんは、しきりに「いい婿をもらった」と言っていた。
まだ決まったわけでも無いのに……。内心悪態をつきながらも引き返せない状況に追い込まれては腹を括るしかなった。
破談に持ち込まなければならないのは心苦しいが、「俺も頑張るからな」と父さんに言われれば後に引くこともできない。
薄く化粧を施して背中まであるウィッグをかぶり、ワンピースを身につけてリビングのソファーに座ってその時を待った。
「撫子にしか見えないわ」
母さんはそう言って目を細める。
「ごめんね。隼人。早くあなたが帰ってこられるように母さんも父さんも頑張るから」
母さんに励まされる。その瞳にはうっすらと涙が見える。こんなに母さんの泣き顔を見た事は無い。ここ数日の間に僕たち家族は目まぐるしい日々を送ってきた。僕が行く事で少しでも平生に戻ることが出来るならと頷いた。
「うん。僕もばれないように頑張るよ」
頷いて微笑むと母さんはギュッと抱き締めた。
「ごめんね。隼人」
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