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第6話 須藤伊織 1/6
食堂の場所が分からず、自分に与えられた部屋に留まっていると、『コンコン』とノックされた。
須藤さんが戻ってきたのかと思いドキッとして身構えると、「失礼します」と言って恵美子さんが現れた。
「あの、夕飯すいません。寝過ごしてしまって……」
「いいんですよ。旦那様がそうなさったのですから」
言われた意味が分からなくて、「どういうことですか?」と尋ねると、「お部屋の香りに気が付かれましたか?」と聞き返された。あの甘い花の香りのことだろうと気が付いて頷いた。
「旦那様が馴れない場所に連れてこられるのだから緊張しているだろうし、心苦しい日々を過ごして来たのだろうからとお部屋に香りを付けるように言われたのです。リラックスできるようにと」
食堂に向かう恵美子さんの後ろをついて行く。
「優しい方ですね」
そんな細やかな気遣いが出来る人なのだと気づかされた。
恵美子さんは頷くと、「どうぞ」と食堂のドアを開いた。
中に入ると後ろでドアが閉められた。
部屋の中央に置かれたテーブルにはおにぎりと数種類のおかずが置かれていて、その向かいには須藤さんが座っていた。
「……先ほどは失礼いたしました。ひいら……撫子です」
『柊』と言いかけて伊地知さんに言われたことを思い出して、名前だけを告げて頭を下げた。
「座って。お腹、空いたでしょう」
「はい」
言われて向かいの椅子に座った。
「どうぞ」
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