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第8話 戸惑う言葉 3/8
「ポージングして」
戸惑っている間に手を肩と腰に回されて引き寄せられた。
友達同士でも無いその近距離にドキッとして、抱かれた腕を意識した。
音楽に合わせてリズムを取り、すっと足を動かされる。「右……左……ゆっくりと……」と耳元で囁かれてそれに合わせて身体を動かす。
何度も足を間違えて踏んでは謝り、ターンを間違えてはぶつかる。間違えるたびに伊織さんは楽しそうに笑って2回目が終わる頃に恵美子さんがティーセットを持ってやって来た時にはクタクタになっていた。
「恵美子。お茶はテラスに運んで。あっちの方が涼しい」
ダンスをして暑くなったのだろう、伊織さんはスーツのジャケットを脱ぐとベッドにそれを置いて、「おいで」と僕の手を取った。
手を繋いだまま廊下を通り、一度外に出ると裏庭のテラスに連れて行かれた。
「君はここが気に入っているらしいね」
「はい」
きっと伊地知さん辺りに聞いたのだろう。
「ここ……ここに寝転んで夜空を見上げるととても綺麗なんだ」
伊織さんはワイシャツが汚れるのも気にせずテラスの中の石のベンチに寝転んだ。天井は透かし模様が入っていて見上げると白い石の間から青い空が見えた。夜にはその間から月光が差し込み、星の輝きが見えるのだろう。
「連れてきてあげるよ」
その笑顔にドキッとした。
「1人では来ないでね。俺が見せに連れてきてあげるから」
「……どうして?」
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