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第8話 戸惑う言葉 4/8

自由にしていいと突き飛ばすような言い方をしておいて、今は縛るような言い方をする。 「君の喜ぶ顔を見たいから」 「……なんで?」 「疑問ばかりだね。俺はまだ君のその戸惑った顔しか見ていないからね。他の顔も見てみたいんだ。君が可愛くてよかった」 「可愛い?」 「これから長い人生を一緒に歩んでいく相手が君のように可愛い相手でよかった」 「え?」 可愛いなんて男の僕には嬉しくない言葉だけど、どうしてだろう、素直に嬉しいと感じてしまった。こんなに率直な言葉を聞くのは初めてで戸惑ってしまう。 この人が褒めているのは僕ではなく、『撫子』なのに。僕を女の人だと信じているからこその言葉なのに。 1年後の結婚式までに嫌われて帰らなければならない。この人の言うように一生なんて共にできないのに。 騙しているのに。 もしばれたら、この人はどうするだろうか。 会社も借金もすべてこの人が助けてくれたからこそのことなのに、僕は騙している。 「どうしたの?」 自然と俯いてしまっていたのを寝転んだまま見上げられた。 「いえ、何でもありません。あ、恵美子さんを手伝ってきます」 視界の端に見えた恵美子さんは両手でティーセットを抱えていた。僕は恵美子さんの元へ急いだ。疼く胸を振り払うようにして。

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