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第9話 惹かれる 1/9
「お茶が済んだら俺は仕事に行く」
「はい」
「とても楽しかった。次はもっと早く会いに来るよ」
「え、いえ、忙しいのでしょうから、無理はされなくて結構です」
社長業している父の姿を知っている身としては伊織さんがどれほど忙しいのかは理解している。海外進出もしている企業ともなると父なんか足元にも及ばないほどの忙しさだろう。
その合間を縫って僕のところに来る必要はない。
「そう? 俺はまた会いたいと思ったんだけど」
手に取ったティーカップをソーサーに戻すと、少し不機嫌そうに口端を上げて、「行って来る」と告げて席を立って颯爽と出て行ってしまった。
慌てて追いかけて馴れない女物の靴が片方脱げて足が絡んだ。
「わぁああっ……」
一瞬の出来事に対応もできずに地面に手を付いた。だけど、そこはテラスの入口で生い茂ったバラの茂みだった。
「ったぁあ……」
痛みに両手を持ち上げると無数の棘が刺さり、血が流れ出ていた。
「撫子っ」
「撫子さん」
振り返った伊織さんが急いで立たせてくれた。側にいた恵美子さんも駆けつけてスカートに付いたバラの葉や土を落としてくれた。
「手当てを……」
スカートに落ちたその血が赤い染みを作る。
「伊織さんは仕事に行ってください。私は大丈夫。恵美子さん」
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