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第10話 深夜の逢瀬 5/10
「両手出して」
言われて出した両手を両手で掴まれる。向かい合うように。
「ゆっくりでいいからね。右足を先に出して、左の膝を曲げて、体重は後ろにかける。足先が付くまでは左に重心を置いて……下を向かないで」
ゆっくりと言われたとおりに足を動かす。両手を掴まれているから落ちる不安はないけど、繋がれていることに緊張する。
「下を向かないで。下を向くと重心が前にかかるから傾くんだよ。胸を張って前を見て」
「はい」
姿勢を正して前を向く。すぐ側に伊織さんの顔がある。伊地知さんが教える時はすぐ横に立って一緒に降りるようにしていた。こんな風に向き合ってなんてしていない。
その至近距離にどきどきする。
それに、今、側には誰もいない。
この間、ダンスをした時も2人きりだった。だけど、その時は肩を見つめていてこんな風に向き合う事はなかった。
「力を抜いて、ゆっくり」
伊織さんは僕を見つめたまま手を引く。躓きそうになるとグッと腕を掴まれる。
細く見えるのにとても力がある。鍛えてもたくましくなれない自分とは違う。この間ダンスをした時に抱き寄せられたあの腕はとてもたくましく僕を支えた。
僕は男で、伊織さんも男だ。だけど、このたくましさに惹かれずにはいられない。
見つめ合ったまま言われるがまま階段を降りる。
ゆっくりと降りたはずなのにそれはあっという間だった。
「降りられた」
下まで転ばすに降りられたことに安堵した。
もう一度降りようと伊織さんに言われて、また手を繋いで降りた。
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