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第10話 深夜の逢瀬 6/10
数段降りると、伊織さんは片手を離して、「スカートを持って」と言った。
「足に絡んで落ちるといけないから。それに降りる時は1人だからね」
「はい」
言われて片方の手でネグリジェのスカートを掴んだ。
反対の手はしっかりと握りなおされて、向かい合ったままだ。
「そのパジャマ、よく似合っているね」
「え、あ、ありがとうございます」
「君は色が白いから薄い色が似合うだろうと思ってけど、間違いはなかったね」
「これ、伊織さんが選んですか?」
階段を降りるたびに空気を含んだフリルがフワリと持ち上がる。
「誰に見せるわけでもないから。俺の好みでかまわないでしょう」
それは寝巻きを選んだ理由だろうか。俺の好みってことは、自分が見るということ前提だ。
妻は求めていないし、僕の自由にしていいと言ったはずなのに。自分の好みは押し付ける。
その矛盾に戸惑う。
「とても似合っているよ。撫子さん」
名前を呼ばれてドキリとした。
ああ、そうだ。僕は『撫子』なんだ。
自覚すると同時に足は一階の廊下に着地した。
夢から覚めるような、現実を突きつけられてギュッと胸が締め付けられた。
その理由が僕には分からなくて、掴んだままの手をぱっと離した。
「後は、1人で大丈夫です」
そう言うと逃げるように階段を駆け上がった。
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