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第11話 脱走 2/11

撫子のように笑ってみる。だけど、そこには憂鬱な顔の僕が映っているだけだ。 『帰るところはないよ』そう言われた。 帰されなければ僕は帰る事は出来ない。逃げることも。 女装なんて無理だと思ったけど、意外と続くものだと自分でも驚く。 まだ伊織さんとは数回しか会ってないけど、もっと会いたいと思うのはなぜだろう。 厳しいことも言うけど、それ以上の優しい言葉。あの包み込むような、ゆったりとした雰囲気のせいだろうか。 ため息をついて小さなバックを手に取ると部屋を出た。 玄関には伊織さんと伊地知さん、恵美子さんが待っていた。 「可愛いね」 伊織さんは笑って自然と僕の手を取った。自分の腕に絡ませるようにして歩き出す。そんなことをされたことのない僕は躓きそうになって余計に密着してしまった。 「ご、ごめんなさい」 「いいよ。とても睦まじく見える」 「あ……そうですよね」 そう、外に出ると僕は花嫁候補。だから数回しか会っていなくても親しい振りをする必要がある。 伊地知さんが車の後部座席を開いて中に入るように促した。僕から先に乗るように言われて奥に座った。 「今日はね、仕事は無いから」 「え? でも会社には行くんですよね?」 ドアを閉めた伊地知さんが運転席に移動している。 「行くけど、俺が合図したら抜け出すからね」 「え?」 「楽しいところに行こうって約束したでしょう」 悪戯っぽく笑うと車に乗り込んできた伊地知さんにばれない様に離れた。

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