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第11話 脱走 3/11
車は静かに走り出し、伊地知さんは運転しながら、「休日とはいえ出社している社員もいますから、気は抜かないでください。あなたは会釈だけで言葉は交わさなくて結構です」と言った。
まあ、話しかけられても困る。伊織さんとの関係を聞かれても返答に困る。まさか借金のカタに嫁入りさせられるとも言えないから。
街中を走り抜け、オフィスビル街を走る。街中はまだ馴染みのある雰囲気だけど、オフィス街には全く馴染みがない。スーツ姿の男女が歩きながら談笑し、タクシーがいくつも通り過ぎていく。
もうすぐ着くのかと思うと自然と緊張してくる。
「信号で停まったら、車から降りてあのタクシーに乗るから」
小声で早口に伊織さんは喋る。
信号?
と思ったのと車が停まったのと伊織さんがドアを開けたのは同時で、「え?」と思う間もなく腕を引かれて車から引き摺り降ろされた。
そのまま横の車の間を通り抜けて歩道に渡ると反対側の歩道に向かって横断歩道を渡った。そして、そこにいた客待ちのタクシーに乗り込んだ。
何度も転びそうになるのを伊織さんは腕を掴んで支えてくれて、タクシーに乗る時には横抱きにするようにして乗り込んだ。タクシーの運転手も驚いたようだった。
「急いで出して」
伊織さんはそう言うと僕を振り返って笑った。
「鷹、怒ったかもね」
「……こんなことして大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないかもね」
伊織さんは笑うと運転手にこの辺りでは有名なショッピングセンターを告げた。
買い物でもするのだろうか?
この間は楽しいところに行こうと言っていた。
「その格好じゃ目立つから。俺も着替えたいし。選んであげる」
「……はい」
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