42 / 78

第11話 脱走 4/11

さすがにこんなドレスのような格好では映画にしても、遊園地にしても目立ちまくりだ。 伊織さんもスーツのままだし。 スーツ姿以外を見た事がないことに気がついて、普段着を想像した。 身長も高いし、スタイルもいい。顔はもちろん格好いい。父からは30代だと聞いているけど、もっと若く見える。とても大企業の社長には見えない。 ブラックのダメージジーンズなんてとても似合いそうだ。それに白いシャツとアクセサリーなんてつけたらきっと芸能人やモデルにも負けないだろう。 僕はそんな人の隣に立ちたくないな。悪目立ちして、男なのがばれるのも困る。 そうだ。僕、服なんて買いに行ったらばれるかもしれない。 「い、伊織さん。服はいらないです」 それにショッピングモールなんかに出かけて知り合いになんて会ったら誤魔化せない。 「遠慮なんてしなくていいよ?」 その言葉に気がついた。僕、お金持ってない。 家を出る時に全部置いてきたし、屋敷の中に閉じ篭っていたから必要なかった。だから気がつかなかった。 「あ、いえ……そういうことじゃなくて……」 人に会っても困るし、全部を伊織さんに出してもらわなければならないのも心苦しい。 「じゃあ何?」 だから僕には選択肢はなくて、「お屋敷に……帰りたい」と言うしかなかった。 「本当に?」 本当は違うけど。 外に出て自由に歩き回りたい。 『隼人』として。 だけど、それは叶わない。この結婚話が破談にならない限り。

ともだちにシェアしよう!