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第11話 脱走 4/11
さすがにこんなドレスのような格好では映画にしても、遊園地にしても目立ちまくりだ。
伊織さんもスーツのままだし。
スーツ姿以外を見た事がないことに気がついて、普段着を想像した。
身長も高いし、スタイルもいい。顔はもちろん格好いい。父からは30代だと聞いているけど、もっと若く見える。とても大企業の社長には見えない。
ブラックのダメージジーンズなんてとても似合いそうだ。それに白いシャツとアクセサリーなんてつけたらきっと芸能人やモデルにも負けないだろう。
僕はそんな人の隣に立ちたくないな。悪目立ちして、男なのがばれるのも困る。
そうだ。僕、服なんて買いに行ったらばれるかもしれない。
「い、伊織さん。服はいらないです」
それにショッピングモールなんかに出かけて知り合いになんて会ったら誤魔化せない。
「遠慮なんてしなくていいよ?」
その言葉に気がついた。僕、お金持ってない。
家を出る時に全部置いてきたし、屋敷の中に閉じ篭っていたから必要なかった。だから気がつかなかった。
「あ、いえ……そういうことじゃなくて……」
人に会っても困るし、全部を伊織さんに出してもらわなければならないのも心苦しい。
「じゃあ何?」
だから僕には選択肢はなくて、「お屋敷に……帰りたい」と言うしかなかった。
「本当に?」
本当は違うけど。
外に出て自由に歩き回りたい。
『隼人』として。
だけど、それは叶わない。この結婚話が破談にならない限り。
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