50 / 78

第13話 再確認 1/13

散々伊地知さんに嫌味を言われて、またもとの憂鬱な日々に戻った。 でも、ふと思い出すのはキス。 「撫子さん。聞いてらっしゃいますか?」 伊地知さんはため息を付いてから、「今夜は謝恩パーティーにご出席頂きます」と言って以前渡されていたスケジュールを指差された。 あの日一日を遊んで過ごしたせいで伊織さんは忙しいらしい。 「ほら出かけますよ」 伊地知さんは僕に部屋を出るように言う。 「どこへ?」 謝恩パーティーは夜だからまだだいぶん時間はあるはずだ。 「それも聞いてなかったんですか? 今から美容室へ行ってドレスに着替えてもらいます」 「び、美容室?」 それは困る。 とてもよく出来たウィッグだとはいえ、美容師さんに見られたらすぐにばれてしまう。 今までは自分で何とかしてきたけど……。 「髪を人に弄られるのは嫌いなんです」 「今日だけ我慢して頂きます」 「嫌です」 「それでは困ります」 僕がそれでは困りますっ。 「じゃあ、私は行きません」 「わがままをおっしゃらないでください」 「じゃあ、じ、自分で、自分で髪は結います」 「大勢の方が来られるのですから、今日は美容院で整えて頂きます」 伊地知さんは引かない。何度も何度も言い合いをして、「いい加減にしなさいっ」と怒鳴られてしまった。

ともだちにシェアしよう!