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第14話 願う嫌悪 4/14
見上げる伊織さんの顔は真剣に僕を見つめている。
「可愛い」
急に言われたことに驚く。
「服を贈るのはその服を脱がせたいからだよ」
のんびりとした口調からさっきの厳しい口調に変わる。
「嫌」
近づく唇に首を振って抵抗した。
「俺は無理強いしたくないけど、君が可愛いくて仕方がない。出来ることならこのまま帰したくない」
それは僕が撫子だから。
「帰りたい」
余計に胸は苦しくて帰りたいと繰り返す。
「伊織さんが嫌い。嫌い。お願い……返して。ぼ……私を嫌いになって……」
嫌いになって追い出して。
「それは君の願い?」
「………ごめんなさい。私はお嫁になんて来れない。だけど、会社や父さんを裏切ることは出来なくて……だから……嫌いになって」
もう無理だ。
自分から嫌われるようになんて振舞えない。
心は正直だ。
嫌われるのはとても怖い。
後戻りできないほど好きになっているから。
「嫌いだよ」
優しい口調で微笑んで伊織さんはそう言った。
言って僕の唇に唇を重ねた。
「嫌い」
離すともう一度囁く。
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