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第15話 約束の場所 2/15

「母さん。あの……僕、須藤さんに会いに行ってくる。会いに行ったら帰って来られないかもしれない」 母さんはソファーに座っている僕を見下ろした。 「僕、嫌われるなんて出来なかった」 2ヶ月以上あの広い屋敷で生活して伊織さんといたのはほんの少し。 「嫌われて……帰ってきたんじゃないんだ。伊織さん……すごくいい人なんだ。僕は騙すのが……とても苦しくなって……」 僕は『撫子』ではなく『隼人』として会いたいと望んだ。 そして、伊織さんは『隼人』と呼んでくれた。 「僕、『隼人』として伊織さんに……恋を……した。ごめん。母さん。撫子にはもうなれない。身代わりなんてできそうにない……」 「みんな、お嫁に行ってしまうのね」 母さんは笑って僕の横に座った。 男に恋をしたなんて母さんは許してくれないだろう。気持ち悪がるかもしれない。 「須藤さんはそれを受け入れてくれるの?」 「……わかんない。だから、今から会いに行ってくる。僕、もう撫子の変わりは出来ない……側にいるのに見てもらえないのはとても辛い。嫌われるなんて出来なかった……」 「隼人。お母さんは反対なんてしない。あなたが望むようにしたらいいわ。あなたが帰ってきたときに気がついたの。こんなに落ち込んでいる隼人を見るのは初めてだし、見ていて辛いわ。あなたがそれでいいなら行ってきなさい。晩御飯は用意しておくから」 それは僕が振られた時の逃げ道。帰ってこられるようにとの。 「うん。行ってきます」 僕が立ち上がると母さんも立ち上がった。 「あなたが『撫子』でも『隼人』でも大事な私の息子よ。……がんばって」 母さんは僕をギュッと抱き締めると背中を押した。 僕は約束の場所に向かった。

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