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第15話 約束の場所 5/15

「……でも、その後何も言わなかったし……『撫子』って呼んでいたし……それに妻って……」 「まあ、可愛いし、好みなら口説くでしょ?」 「口説いていたの?」 「気がついてなかったの?」 伊織さんは可笑しそうに笑って、「もしかして鈍い?」と聞いた。 「鈍くはないと思うけど……だって、僕は身代わりでここに来ていたし、嫌われて……帰らなくちゃいけなくて、男だし……」 「フィルターがかかっていたんだね。いいよ。今から口説くから」 「それって……必要?」 だって、僕はすでに囚われている。 好きになっている。 それはさっきの口付けで伝わっているはずだし、ここに来た事で分かっているはずだ。 「必要だよ。一生俺の妻でいてもらうんだから。ね」 笑うと僕の頭を引き寄せて口づける。触れ合うだけを繰り返して、「次は泣いても帰さないから」と言った。

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