65 / 78

第16話 囚われる 1/16

「今日は鷹は来てないから」 観覧車を降りて歩き出す。 キスをされ続けて夜景なんて見てなかった。 「恋人同士もこうやってキスをする?」 悪戯っぽく笑ってキスの間に囁かれた。 「僕も……観覧車に初めて乗ったから……分からない」 「乗ったことなかったの?」 「乗った事はあるけど………こ、恋人同士で乗ったことない」 キッと睨みつけると、「じゃあ、みんなそうなんだよ」とキスを続けた。 降りる直前にキスから開放されて俯いて降りた。 今更気がついたけど、男2人で乗って変に思われなかっただろうか……。 俯いたまま後ろを付いて歩く。 ジーンズとシャツという僕とさして変わらない格好。だけど、人目を引く魅力を持っている。 「隼人?」 歩調が遅くなったことに伊織さんは振り返った。 「どうしたの?」 「いえ……今更だけど……伊織さんは僕で……僕でいい?」 社長だし、大人だし、男だし、子どもだって必要だし……次々と浮かぶ不安。 僕は何一つ……何一つ叶えることが出来ない。 「本当に今更だね」 立ち止まった伊織さんは僕を抱き締めた。それは優しく包み込むように。 抗えばすぐに離れてしまうほどの弱さで僕を抱き締める。 「俺は言ったよ。何不自由のない生活を約束するって」

ともだちにシェアしよう!