66 / 78
第16話 囚われる 2/16
「それは……僕が撫子だったからで……」
「俺はその時には隼人だって知っていたよ」
「で、でも、話したことも無かったし……」
「そうだね。でも、花嫁候補として君が来た時から俺は妻にする予定だったし、君を見てそう決めていたからああ言ったんだ」
「決めていたって……」
「うん」
緩く抱きしめられたまま見つめ合う。
「僕に?」
「俺の妻になって」
「男だよ」
「関係ない」
「子どもも産めないよ」
「全然問題ない。我が社には優秀な人材がたくさんいる。もう帰さないよ。君は俺が妻にすると決めたんだから」
緩く抱き締めているのは僕に猶予を与えるためだろう。決めたと言いながら逃げ道をくれている。
「俺の妻になって」
真剣な瞳に写るのはネオンの輝く観覧車。
「うん」
頷くと動じにギュッと強く抱き締められた。
胸は跳ね上がるのに与えられる安心感と情愛。
背中に両手を回してシャツを掴んで抱き締め返した。
「行こう」
手を引かれて歩き出す。
どこに連れて行かれるのか分からずに戸惑っていると「家に帰るよ」と言った。
連れてこられたのは駐車場。黒塗りのワンボックスタイプの車。
近づいただけで鍵が開いたその助手席のドアを開けて、「乗って」と促されて乗り込むと運転席に伊織さんが座った。
「運転できるんですか?」
「出来るよ。隼人も免許持っているよね」
ともだちにシェアしよう!