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第16話 囚われる 2/16

「それは……僕が撫子だったからで……」 「俺はその時には隼人だって知っていたよ」 「で、でも、話したことも無かったし……」 「そうだね。でも、花嫁候補として君が来た時から俺は妻にする予定だったし、君を見てそう決めていたからああ言ったんだ」 「決めていたって……」 「うん」 緩く抱きしめられたまま見つめ合う。 「僕に?」 「俺の妻になって」 「男だよ」 「関係ない」 「子どもも産めないよ」 「全然問題ない。我が社には優秀な人材がたくさんいる。もう帰さないよ。君は俺が妻にすると決めたんだから」 緩く抱き締めているのは僕に猶予を与えるためだろう。決めたと言いながら逃げ道をくれている。 「俺の妻になって」 真剣な瞳に写るのはネオンの輝く観覧車。 「うん」 頷くと動じにギュッと強く抱き締められた。 胸は跳ね上がるのに与えられる安心感と情愛。 背中に両手を回してシャツを掴んで抱き締め返した。 「行こう」 手を引かれて歩き出す。 どこに連れて行かれるのか分からずに戸惑っていると「家に帰るよ」と言った。 連れてこられたのは駐車場。黒塗りのワンボックスタイプの車。 近づいただけで鍵が開いたその助手席のドアを開けて、「乗って」と促されて乗り込むと運転席に伊織さんが座った。 「運転できるんですか?」 「出来るよ。隼人も免許持っているよね」

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