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金平糖8 美術部での闇の契約 または、取り引き。

「おーーい。小松ぅ~~すっげぇ、お客様と一緒に洸の野郎が来てるぜ」  キャンパスに色を塗っていた小松の筆が止まる。 「? 洸の奴と……誰が来たって????」  首を傾げて呼ばれた方向に身体をズラして見れば。  松本角 サッカー部 副主将 あだ名 ノーパン  松本円 サッカー部 マネージャー あだ名 ツンドラ姫   そして。  松本平 サッカー部 イケメン  松本3兄姉弟 が勢揃いで雁首揃えて小松自身と視線がかち合う。 「洸!?」  角の肩から視える洸に、小松の腰が椅子から飛び上がる。 「何!? 何!? 何事なんだ!?」  バタバタと扉へと小走りに向かった。  その途中の小松に「どうしたんだ? 洸っぺ」「松本3兄姉弟、勢揃いとか激超レア~~」と部員たちも黄色い声やため息を吐いた。 「洸っ! どうかしたのか????」  驚いた表情を向ける小松に、洸もしどろもどろと応えた。 「いやぁ~~……どうも何も、この有様だよ」 「意味が分からないんだけど……」  戸惑う小松の目が細められる。 「こんな優男が好きなんだ。リョーマの奴」 「ああ。まさかの、……まぁ、顔はいいな。可愛いじゃないか」 「え? 角も好みなの、こーゆータイプ」と上擦った口調で円も確認に聞いてしまう。  そんな兄姉を他所に。 「洸はさ、僕に聞いたんだよ」 「え? 何の話しですか、松本君」 「平でいいよ、ここに松本は3人もいるからさ。あと同学年だから敬語じゃなくてタメ口でいいから」  何を思ってか頭を掻く平に、 「そう? 洸は平に何を聞いたの?」  首を傾げて、理解の追いつかない小松も戸惑いに聞き返した。 「磯部リョーマがどうして小松に金平糖をあげたのか。その理由を僕に聞いて来たんだ」  リョーマの名前に小松も身体を堅くさせる。 「それで。貰った小松の方も分かってんの?」 「……そりゃあ。日が日だし。性別関係ないとしても、鈍い僕だって――分かるよ」 「よかった。そりゃあリョーマの奴も報われるってもんだ。それでだ。この男は、それがどういう好きなのか知りたくなって、僕に聞いて来たんだよ。  僕にとって最大のチャンスだった。  ああ。僕は洸のことがリョーマみたいに好きなんだ。そこも理解してくれると助かるよ。出来ればの話しなんだけどさ」  ぐりゃり、と小松の視界が曲がる。  角に背負われる洸はどこかぐったりとしている。  逆に平は生き生きと、つやつやとしているように視える。  頭の中のジグソーパズルが組み上がっていく。  それは認めたくはない現実(モノ)だ。 「ぁ……え、ぇえ、っと……」  言葉を失う小松は必死に探した。  何を、どう言えばいいのかと。  自分が言ってしまったことによって、同じサッカー部でもあった相手の友人に直接聞くとは、君は何をしているんだと口に出そうになってしまうが。  その罰はもう受けてしまったかのような彼に、 (まさか。いや、でも。背負われてるってことは、……掘られたのかな? ひょっとして)  想像してしまったことに、あり得ないことではないと生唾を飲み込んだ。 (じゃあ、つまりは洸の奴はネコなのかな? でも、そこは平が……でも、うぅん)  警戒の視線を平に送る小松に、 「松重。もう帰れるか?」  角が低い口調で話した。  「え。あ、……はい」  角の言葉に小松も頷くのだった。 「船橋ってば、ほら。この様でしょう? でも、私たちは船橋の家がどこなのかは知らないから。今は、意識あるけど、さっきまで完全に伸びてて可愛かった」  円がにこやかに小松の状況の説明を話した。  それに小松も「伸びてたってのは……」と言葉に詰まってしまう。  扉の場所にいる彼らに、 「おやおや。洸君っ、今日はデッサンモデルに協力をしてくれるんじゃなかったのかなぁ?」  美術部の部長である的場丞一郎(マトバジョウイチロウ)が喜々と声を掛けて来た。  低い身長に横に大きな身体。噂では120キロはあるとされる体重。  10代にして若禿の彼には――【課長】というあだ名がある程に老け顔だ。  本人も無精ひげを剃ることもせずに伸ばしていた。  気がつけばモミアゲと髭が一体化の顔顎の箇所の部分が【次元化】となるのだった。  頭部は若禿だが前髪は長く、美術部のときはヘアピンで上に上げていて会長とも呼ばれるのだが一部の部員からである。小松は課長と呼んでいたし、洸はジョーさんと呼んでいた。 「「「デッサンモデル????」」」  松本兄姉弟の声が重なる。 「ジョーさん。今日はマジのマジで無理っす」 「男の子だろぉ~~う! 若いんだからっ! ハッスル! ハッスルぅう!」  両腕をバタバタと動かす丞一郎に「んなこと言ったってぇ」と洸は顔を角の肩に埋めた。  それに角もほくそくんだ。 「部長。明日にしてくれるのならば、オイラもデッサンモデルになろう」 「!? ぇ、うえぇええ!?」 「ダメか?」  丞一郎の目が大きく見開かれて、キラキラと輝くのが分かる。  それは角も驚き引くほどの様子だ。円は冷ややかに口をへの字に見ている。 「明日は自主練でな。自由な時間があるんだ」  角の言葉に背中に背負われたままの洸は、 (オレは、じゃあ――しなくてもいいのかな? デッサンモデル)  なら空いた明日は寝て居ようと思った矢先に、丞一郎が満面の笑みで応えた。 「2人組でのデッサンモデルなんか大歓迎なんだが!」 「え。オレもすんのかよっ! デッサンモデルっっっっ‼」と思わず大声で吠えた洸に丞一郎は首を傾げて洸へと視線を向けた。 「約束は約束でしょう。男同士の約束は守ってナンボでしょうw」  至極、まともな言い返しに洸も言葉も、返事も返せない。  大人しくなってしまった洸を背負い直して、 「ほら。帰る準備しろよ、松重っ」  角が命令口調で吠えた。 「っは、はいぃい!」

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