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金平糖9 恋愛の条件変更と色目のトンビと油あげ
(やっぱりというか、……うん)
廊下を歩く4人組。そのうち3人は校内、そして他校にファンクラブをもつ松本兄姉弟。
黄色い声とため息、そして――
『あの、もう1人の小さいのは誰だ?』『邪魔だなぁ』『誰かと恋人か、それとも付き人かなんかか?』などと聞こえる生徒たちの疑問符と視線に小松も「ムリムリムリ!」と唇を噛み締めてしかめっ面である。
辺りの様子と声の反応に角に背負われている洸も小松に声をかけた。
「小松、気にすんなよ。この人達は目立つだけだから」
「ぁ、ああ。え、……洸は気になんないの????」
「慣れたよ。オレもサッカー部員だし、いつもこんなの目にしてっしな」
「僕は居心地が悪いったらないよ。何かされたらたまった――」と自身の身の危険を語る小松に平が言葉を被せるように言い放つ。
「それは大丈夫だろうね。あンたに手を出したら番犬がそいつを病院送りにするし」
平の言葉に小松の顔が横に少し倒れた。
彼の言葉の意味が分からないからである。
「番犬????」
「あンたに金平糖を渡した相手のことだよ」
「! ……磯部くんのことか」
「話したことはあんの?」
返事の代わりに小松は顔を横に振る。
「まぁ。だよなぁ~~リョーマの奴が声をかけるとか出来っこないし。金平糖も、よくも渡せたもんだと思うしな」
「なんで。金平糖のことを知ってるの? 聞いたの????」
小松も平に聞く。
僅かに興味沸いたからだ。
「僕も一緒に買いに行ったんだよ」
平の言葉に角と円が驚きの表情に変わる。
「「お前 も買ったのか!?」」
揃う声に平も「そりゃあ、買ったよ」なんてはにかんだ表情を向けた。
「え。オレ、貰ってないんだけど? バレンタインの……」
思わず。きょとんと洸が言葉を漏らす。
貰うとしたら自分だろうと思ってしまったからだ。
なのに、どうだ。
まだ、貰ってなんかいない。
(入れ違いになったとか? いや、それとも――……)
口で、身体で知らされたが。
実際はヤりたいだけの嘘であって、他の誰かに渡したという可能性に洸も息を飲み込む。
男である自分ではなく、他の可愛い女の子にチョコを渡し済みなのかもしれない。
今は逆に渡すパターンもあるしな、と自身に言い聞かせる。
(ヤられ……損、じゃん。やっぱり、オレなんかオナホ変わりに掘られたんだな)
つん、と鼻先が痛む。
(あ゛ー~~……泣きそうだ)
じわじわと目の端に涙が浮かぶのが分かる。
押さえたいのに、それはままならない。
「え? ああ。食っちゃった。バレンタインデーって滅多に売らなくて食えないチョコとかなんかあって、ついつい自分に買って食べちゃうよなぁw 兄貴も姉貴も買わないの? 自分へのご褒美とかでさ」
平の無邪気な言葉に、
「「馬鹿なのか!?」」
思わず強い口調で言い放った。
「なんと言うか。こんな、……愚弟すまないな。船橋。悪気はないとか思うぞ」
「ないない! そんな裏表の顔なんか出来るほど頭はよくないからね。所詮は顔だけなんだよ、顔がいいだけなんだよ。この愚弟はさ!」
死んでしまったかのような表情の洸に角と円が平の行動をフォローをする。
買ったのにどうして渡さないのかと、半ば呆れ、半ば怒り心頭である。
「別に、……いいんですけど。欲しくも、……ねぇっすから」
涙声に揺れる洸の言葉に2人も弱ってしまう。
だが、ここで何か変わりを買っても渡しても、遅いのは分かっている。
「松重。家はどこだ?」
「えぇっと。本当に来るんですか? みなさん家は……」
「そんなことは気にしなくてもいいのよ。案内なさい」
「いや。洸とアトリエにタクシーで帰ってもいいんですけど」
小松は松本兄姉弟を招きたくない一心だ。
とてつもなく面倒事になっていくような気がして堪らないし、洸の状態も気が気ではない。その原因をつくったのは、他ならない松本平。その兄と姉まで首を突っ込むのは異常なような気がしてならない。
松本たちに洸に興味を持たれるのは嫌だった。
洸は自分だけの友人であって欲しいと望んでいる。
それは誰かを恋人にしても、すぐ横で肩を並べる関係でありたい、いい相談関係でもありたいと小松は洸に望んでいる訳である。それを邪魔されかねない由々しき事態とも言える状態だ。
何故、こうなってしまったのか。
(金平糖を貰ったことを言ったからか? 相手が磯部だって言ったからか? ……洸も馬鹿みたいに、どうして聞くかなぁ~~あー~~もぉ゛う゛!)
次第に洸にも不満が溢れ出てしまい、小松の内心は大荒れの天候となってしまう。
「タクシーが汚れるからヤメておくんだな」
小松の案を角が一蹴する。
彼の洸の腰を支える手は平の精液でベトベトであり離すことは出来ない。
服と手の甲がギトギトと固定し繋がってしまっているのだ。
「歩いて帰ることの出来る距離なんでしょう?」
「まぁ。はい、4キロくらいなんで」
「なら、もう話すよりも歩きましょう。ね、角」
「ああ。そうしょう」
そんな2人の言葉通りに、
「好きなタイプ」「どんな料理が好きなのか」「犬派か、猫派か」
などといった質問が洸に投げつけられた。
洸も応えていたのだが、気がつけば寝てしまう。
「よくもこれで寝られるもんだな」
「まぁ。仕方ないでしょう、どっかの馬鹿に、無理矢理と孔をこじ開けられて中出しですからね。初めてだったでしょうし、緊張の糸が切れてしまったんでしょうね」
円は平に聞こえるように吐き捨てた。
「姉貴。男嫌いなのに、大丈夫なのかよ? 今、周りが男なんだけど」
平も男嫌いであるはずの円に続けて聞く。
「サッカー部の女マネをして慣れたわよ。男は今だに嫌いだったけど――」と円は角の背中で眠ってしまった洸を見てほくそくんだ。
「悪くないわね」
「女が大好きなんだよね!? ね!? だったよね????」
「ええ。でも今は本命もいなかったし。たまに、好みとか毛色の変わった子と付き合うのもありよね。18歳になれば成人で、大人にもなるんですから。世界観を拡げないと勿体無いわよね。そうでしょう? 角」
突然の声掛けに角も掛ける言葉に戸惑ったのだが、
「他をあたったらどうだ。もう唾が吐いたものへのお手付きは感心しないな」
含みのある言い方に平は「?」と、それは小松も同様に「?」となった。
「トンビと油あげみたいに。さらって行きたいのはお前も同じな癖に。大人ぶったらダメだよ、角ちゃんw」
声を弾ませる円に角の眉間にしわが寄る。
あーでもないこーでもないのやり取りの中で。
「着きましたよ」
小松が着いたことを冴えない表情で言うのであった。
「ここが僕のアトリエ兼家です」
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