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第2話
「市川君、落ち着いて。そんな突然……」
とりあえず手は握り返さなかった。そしてなんとか座らせようと宥めること五分、やっと座って説明してくれた。
「俺さ、大した病気じゃないんだけど完治するのに、時間かかるみたいなんだよね……」
「そうなんだ……」
「もしかしたらみんなと卒業できないかも……」
「それは寂しいね」
「だろ!?俺、高校生っていう青春真っ盛りに恋の一つも出来ないんだぜ!」
「はぁ……」
「こんなこと、友達には相談出来ないし……。だから委員長。……俺の彼氏になって」
「はぁ!?」
ーー何言ってるんだ!?友達に言えないからってなんで俺に……
「市川君、ごめん。僕。彼女はいないけど女の子が好きなんだ。こんな事言うのもアレだけど……そういうサイトとかで知り合えるんじゃないかなぁ?」
俺は精一杯の外面スマイルで市川を説得した。
「えっサイトとか怖いじゃん!知らない人だし……。あと委員長がノーマルなのも知ってるよ」
そう言いながら市川はチューとストローを使いながら麦茶を飲んだ。説得失敗、きっと俺のスマイルにはひびが入っていただろう。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと恋愛ごっこしてくれればいいから!期間限定で!」
「恋愛ごっこ?期間限定?」
市川は飲んでいた麦茶を机に置くと少し困ったように笑いながら俺の手を握った。
「そう、俺のしたかったことにちょっと付き合って。期間は……うーん、夏休みが終わるまで。」
ダメかな?と上目遣いで見つめられるとちょっとだけドキッとした。
ーーまぁ今が4月半ばだから、4ヶ月と少し付き合えばいいのか。先生には市川に勉強教えているとでも言えば印象良くなるし。
「まぁそれなら……いいよ」
打算で溢れた返事だったがそれでも市川はヤッター!と声を出して喜んでいた。
「それで、したかったことってなに?」
「うーんとね、お花見デートでしょ、あと一緒に勉強会してみたり、夏には海に行きたい!」
それって友達とも出来るんじゃないか?と、心の中で思ったが逆にそれだけすれば俺は解放されるんだな、とポジティブに考えることにした。
「いいよ、じゃあ明日土曜日だしお花見行く?っていっても葉桜だろうけど……」
「いいの!?」
目をキラキラ輝かせながら前のめりで聞いてくる市川にちょっとビビる俺。
「あのさ、体調大丈夫なの?自宅療養なんでしょ」
「だーいじょーぶ!悪くなったら言うから!あっ明日十時に駅前でいい?うわー楽しみっ」
あんまり嬉しそうに笑うからちょっとだけ俺も楽しみに思っちゃったじゃねぇか。だからこれはちょっとだけサービス。
「無理するなよ、市川君」
舞い上がる市川の腕を引っ張り顔を近づけると頭をポンポンと撫でた。途端にボンと、音が出そうな程真っ赤になる市川。
そのまま顔をプイと背けると恥ずかしそうに俺に言った。
「あ、あのさ……恋人になるなら……遼って、呼んでよ」
くそー、これはちょっとキュンとしたぞ!
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