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第2話

確かに最初に君の教育係だと紹介された時には驚いた。 私よりも年下という事を聞いていたとは言えその顔はあまりにも童顔で、これでは社会人として世間の者に舐められるのではないのかと、心配を通り越して呆れさえした。 しかし、その心配はすぐに杞憂だと分かった。私では思いもつかない提案を次々としてはそれを纏め上げ成功に導いていく。かと言ってそれをひけらかすわけでもなく、それどころか周囲に配慮をするその姿勢に、年は関係なく尊敬できる先輩としての想いを強くさせていった。 その頃、私には付き合っている女性がいた……と言っても別に好きとかと言う感情はあまりななかった。ただ、付き合いで行った合コンで、なんとなく付き合い始めただけの関係だった。彼にも同じように付き合っている女性がいる事も知っていた。 しかし、彼と仕事だけではなく会社帰りに飲みに誘われたり、出張などで一緒に出掛ける機会が増えていくごとに、ありきたりな話だが私の中での彼の存在が多くを占め、その事を浮気と勘違いした彼女に責められて初めて自分の気持ちに気が付くと言う、本当に彼女には今でも悪い事をしたと思ってはいるが、自分の気持ちに気付かせてくれた事に感謝もしている。 それは自分が認識した初めての恋だった。 私が彼女と別れた事を知って、暫くは慰める為に自分の彼女そっちのけで私に付き合ってくれた彼に、自覚した想いはまるで暴走するように成長し膨らんで、とうとうはちきれんばかりになったその気持ちを持ったままでは彼と一緒に仕事をする事も困難となっていた頃、会社の帰りに立ち寄った書店で行われていた何かのイベントでふと目に止まったシンプルなレターセット。 薄い用紙の周囲を金枠で囲んだだけの便箋を前にして、私は何度も何度も自分の抑えられない気持ちを書き散らかした。しかし、何をいくら書いてもそれは自分のこの抑えられない気持ちにはまるで足りなくて、何度も破り捨てては書き直すという事を繰り返した挙句、ついにたった一文に辿り着いた。 それをまるで包むように便箋を2枚重ねて折り畳むと、封筒を取り出して最初に貰った彼の名刺を見ながら、暗記している彼の名前を一つ一つ確認してゆっくりと丁寧に書いていく。 最後に様を書いて、便箋を封筒に入れ糊を付けて密閉した。まるで自分の気持ちもその中に閉じ込めるように。 それは私のスーツの内ポケットに毎日入れられ、彼と目が合うたび、彼に微笑みかけられるたび、彼に話しかけられるたび、その他、彼との色々なことがあるたびに溢れそうになる想いをその封筒の中の言葉に吸い込ませていった。 あれから数年が経ち、もういい年と呼ばれるようになった私達だが、関係は変わることなく続いていたし、このまま変わる事なく続いていくと思っていた。

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