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第7話

「ん…待って…弟さんっ…まだ繋がってるんでしょ…あっ…」 電話越しでもわかる肌と肌がぶつかる音と粘着質な音。そして何度も聞こえるリップ音…俺は何を聞かされているんだ…恋人たちの交わり? 「いいじゃん…聞かせてやろうよ…君の可愛い声」 「あっ…やっ…あ…は…んっ…だめぇ」 男がイッたのか一際甘い声が上がった 聞きたくなくて切ろうとするとあいつが囁いた 「切るなよ」 そう言われると俺は動けなくなってその音を聞き続けた。イキすぎて我を忘れたのか相手は激しく啼き続けていた 耳を塞ぎたいのに出来なくて息を殺して耐え続けた それから暫くしてあいつが話しかけていた 「ねぇごめんもう一回電話させてくれる?」 「ん…いいよ」 相手は電話が切れていると思っていたんだ。だからあんなに艶めかしく啼いていたんだ… 「もしもし」 あいつが白々しくそう言った 「はい」 「これから取りに行くから準備しておいて」 「…わかった…」 「それから…今日はえむとご飯食べに行くから飯はいらない」 彼がそのえむくんなのだろうか… 「けいくん…弟君も一緒にご飯食べようよ」 やっぱり彼がそうみたいだ 「弟俺と違って喋らないからつまらないよ」 「でもいい子そうだよ。俺会いたい」 えむくんがあいつにおねだりしている。 「わかったよ。じゃあ家で食べよ。ってことだからいろいろ準備しておけよ」 準備とは?きっと昨日と今日の朝の惨状の痕跡を残さぬようにしておけということなのだろう。それと食事の準備… 「…わかった…」 「会えるの楽しみだなぁ」 純粋に彼氏の家族に会えるんだって思ってるんだろう。きっと彼は凄くいい人なんだろうな…そんな人があいつの隣なんて…あまりにも申し訳ない気がしてくる 彼が不幸になりませんように…そう願わずにはいられない… そうなのだ…わかっているのだ…このままじゃ駄目なことくらい…でも…やっぱり俺にはあいつしかいなくて…あいつじゃないとだめで…いつかきっと俺だけを見てくれる日が来るんだって信じたくて堪らないのだ 「あと一時間くらいで戻るから。じゃあな」 そう言って切られて連日複数人の相手をしてギシギシなりそうなくらい体中が痛いけれど無理矢理体を動かして急いで痕跡を消していく隅々まで丁寧にかつ迅速に… 必死の思いで片付けて近くのスーパーへ買い物に行って戻ると言われた時間にあわせて料理して…やっと終わった頃はへとへとで…あいつは時間通りに戻ってきた 隣にいる人は凄く綺麗で儚くて…柔和な笑みを浮かべている。 「ただいま。えむ。食べよ」 「うん…これ全部一人で?」 「はい」 「すごいねぇ。一緒に食べよ。弟君…って言うのも何か寂しいなぁ…お名前教えて?」 「えーむ」 「なぁに?」 「嫉妬しちゃうからあんまりそいつと喋んないで」 「お名前ぐらいいいでしょ?」 「そいつはアルだ」 アルって誰だよ?…あぁ…俺か… 無言でぺこっと頭を下げその場を立った。 「アルくん?」 「ごめんなさい。俺仕事持ち帰ってて…お先しちゃったので部屋に戻りますね。ごゆっくり。お兄ちゃん食器はそのままでいいからね」 そう言って奥の部屋に戻った 部屋とはいえ物置と化している。職業柄服や靴などが多いので1部屋をそうしたのだ。けれど沢山あったお気に入りの服は随分と処分した。あいつの好みでないものは全て。空いたスペースはあいつの趣味の悪いもので埋まった。 今日はここで眠ることになりそうだ。ソファーベットに腰掛けてため息をつく きっと腹が膨れたら寝室で交わるのだろう。きっとこれまでの人とは違うから俺がそこへ呼ばれることは無いだろう。

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