8 / 67

第8話

そうしていると玄関の開く音が聞こえた。 あれ?帰っちゃったのかな?… そう思っていると部屋の扉がノックされた。あいつはそんなことはしない… 「はい…」 「ごめんね。アルくん少しいいかな?」 この部屋で一緒にいたらあいつに何をされるかわからない… 「今行きます」 部屋から出ると笑顔のえむさんが立っていた 「あいつは?」 「今お願いして買い物に行ってもらったんだ。あんまり時間ないけど君と話したくて」 「俺と?」 「うん。ちょっと失礼するよ」 そういうとえむさんは俺の服をめくる 「何するんですか!?」 驚いて彼の手を払い除ける 「ごめん…いきなり…すごい…痣だね…」 痛ましそうに顔を歪める 「あんた…何?」 「覚えてないよね?光海さん。俺あなたのお陰で救われたの」 「え?」 「貴方はアルじゃないしあの人の弟でもない。竜胆さん。光海竜胆さん」 「…」 「昨日さ…酷い犯され方したでしょ?その中の一人が俺の友人なんだ…」 「…」 「その人が俺に声をかけてくれたの。貴方を助けてくれって。そいつも貴方に救われた人なんだよ」 「俺を救う?意味がわからない」 「貴方はあいつに洗脳されてる…もうやめようよ。勿体ない。貴方はあいつには勿体ない」 「…けれどえむさん。貴方はあいつのこと好きなんでしょ?」 「好きじゃない。好きなふりをしている。俺はどんな手を使ってもあいつと貴方を別れさせる」 「悪いけど別れる気はない。あいつが帰ってくると面倒だから部屋に戻ります。じゃあ」   もう一度部屋に戻り扉を閉めると同時に玄関が開いた 「おかえりぃ」 えむさんは甘えたような声を出した。すごいと思う。さっきまであんなに忌々しそうに話していたのに。俺が彼に何をしたのかはさっぱりわからない…けれど…ホッとしている自分がいた。 彼はあいつを好きじゃない…だったら俺みたいにはならない…こんな思いをするのは俺だけで十分だ… 「良かった…」 そうして一晩えむさんとあいつの声を聞きながら過ごした 俺と別れさせる為というのが本当ならあの人が体を張ってまで俺をどうにかしようと思っているということだ。そんなにしてもらうような事を過去にした記憶なんてないのに… そんなに頑張ってくれているのに俺は別れる気なんて全くないから無駄にしてしまう…本当に申し訳ない

ともだちにシェアしよう!