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第22話
「光海。俺は殴らないよ。大丈夫だ。ちゃんと呼吸して。ほら。俺と合わせて」
店長の言う通りにすると落ち着いてきた
「すいません」
「いや。大丈夫だ」
「店長…あの…」
「ん?」
「あのときは…追い出しちゃってすいませんでした」
「…こっちこそ…なぁ。あの人のこと好きだったのか?」
「…軽蔑されるかもしれないけど…俺はあの人のことを好きだと思ったことは一度もないんです…」
「じゃあなぜ?」
「始まりが…あまりいい始まりではないんです…」
彼との馴れ初めを話したら表情を歪める
「始めから…好きではなかったんだな」
「えぇ…とにかく疲れ果ててたから…」
「新店舗オープンして間もない頃だな…」
「はい」
「それは俺にも責任がある…光海が仕事が出来るから甘えていた…すまなかった」
店長が深々と頭を下げた
そんなことしてもらう理由なんてどこにもないのに…
「あの…店長…頭を上げてください…あなたは何も悪くないです」
「あの仕事は…お前でなくてもよかった…」
それを言われるとなにかにぐさりと刺された気分だった
店でも必要とされなくなったのか…そう思うと苦しくて…
「店長…俺…辞めます」
「は?」
「こんなにご迷惑をお掛けしたのに…そこにいるわけには行きませんから」
「…さっきの言葉の意味はそういう意味ではない…あの日は…今でも覚えてるんだ…初日だっただろ?本当はさ他店舗から応援が来ることになってた…お前が休みだったから。けど…初日だったから俺はお前としたかったんだ…お前と始めたかった…シフトを元から入れておけばよかったんだが初めてシフト作ったからわけわかんなくなってて…って…そんなのいいわけだけどさ…あの週お前に無理をさせていたのはわかってたんだ…けどお前が良かった…お前と作りたかったっていう俺の勝手なわがままだったんだ…お前と…他の誰かじゃなく…」
「それって…」
「お前がいなきゃ俺はだめだ…それは初めて会った時からだった…だからお前が着いてきてくれると言ってくれたとき本当に嬉しかったんだ…」
「初めて会った時?」
店長は実は俺より後に入社している。とはいえ俺はバイトで店長は社員だったけど。だから歴としては俺の方が長い。普通なら教育は社員がするんだけれど初めて配属された店舗は小規模店舗で俺以外で正社員は二人とバイトが俺ともう一人だった。そこに店長がやってきたのだ。
社員は他に仕事が多くて必然的にバイトで歴の長い俺が教育係となった。
店長は本当に物覚えもよかったし元々センスがあった
だから俺が教えることは本当に少なくて手のかからない人だった。みるみるうちに俺なんか足元にも及ばないくらい売上を上げて社員表彰の常連となっていった。
差は付けられたが悔しさより喜びの方が上回っていた。
「光海が多くのことを教えてくれたから今があるんだ‥お前はずっと俺の憧れで特別な相手なんだよ」
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