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第26話
退院の日。流石に両親に来てもらわないと家がわからない。とても苦痛だが仕方がない。
またあのヒステリックな金切り声を聞くのかと思うだけで憂鬱だ…
時間が近付いてきて現れたのは父と菖蒲で母の姿はない
「竜胆帰るぞ」
父はそう言うと俺の肩をトントンと軽く叩いた
「ごめんな…母さん…連れてこれなかった」
「ううん。いいよ。かえってよかった。また何か言われたらもう俺は…」
「お前の新しい家で飯作って待ってるから行こうか」
父に促されて帰宅する。家には母の姿はない
新しい家は前よりセキュリティがしっかりしていた割と新しいマンションだった。
「ここ…家賃いくら?」
「今の所と変わらないよ」
そんなはずはない…どう見たって前よりすごく高そうだ…家賃払えるか?そんなこと気にしていたら顔に出ていたらしい。父が言う
「ここの管理者が俺の昔からの知り合いなんだ。それで前と同じくらいで探してもらってここを紹介された。ここだとお前の好きな服や靴やアクセサリーも沢山収納できるだろ?」
そう言って父は悪戯っぽく笑った
「よしっ!飯食うか」
そこに並んでいたのは俺の好物ばかりだった。母なりに思うところもあったのだろうか?
「なぁ。竜胆」
「ん?」
「母さんを許せないか?」
「…母さんの気持ちもわかるよ。けど俺は多くの人を見てきた。だからあんな風に何も知らないくせに言うなんて意味がわからない。普通って何?対象は男なのに無理矢理好きでもない女と結婚して子供作って…それが普通なわけ?そんなの相手の人を侮辱しているようなもんじゃない?そっちの方がどうかしてると思うよ」
「…俺と母さんの馴れ初めは話したことがあったかな?」
「知らないよ」
「…少し聞いてくれるかな?」
父side
彼女との出会いは見合いだった。結婚というものに全く興味のなかった俺にたまたま舞い込んだ話しだ。
俺はそもそも人に興味がなくて恋愛というものには全く縁もなく過ごしてきた。ただ昔から子供は好きだったから子供はいつか出来たらと思っていた。もしかすると相手もそうかもしれないと思ってその話を受けた。
やってきた人はとても美しい人で驚いた。
話してみると奥ゆかしくてやまとなでしこのような人。
こんな人がこんな冴えない俺との話を受けるとは…世の中わからないものだ。
その日から数回二人で会い今後のことについても色々と話した。
そんなある日のこと。たまたま街で出会した相手を見て彼女は俯いた
「どうしたの?」
「ごめんなさい…貴方に黙っていたことがあるの…」
そう言うと彼女は本当は好きな人がいてその人と恋仲にあると教えてくれた。その相手が彼だというのだ。
彼も彼女に気付き近づいてきた
「エリカ」
「…」
彼の隣には可愛らしい男性がいて申し訳無さそうに俯いていた
「…エリカ…ゴメンな」
「…ううん。いいの。だって周りの目を気にして未来の話をするなんてそんなの申し訳ないもの…無理して親に決められたレールを歩くより愛する人と共にあれる方が幸せだと思う…私はあなた達の幸せを願ってる。じゃあね…」
そういうと彼女は俺の腕を絡ませてその場を立ち去った
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