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第27話

「エリカさん?」 暫くして彼女は俯き涙を流していた 「…ここだと目立つよ。こっち行こ」 彼女の手を引いて人通りの少ない道へ来た 「…ごめんなさい」 「うん」 「私があなたとのお見合いの話を受けたのは…あの人のことを忘れたいから」 「うん」 「彼とは長いことお付き合いしていたの…互いにいつも笑顔で要られてとても幸せで…けれどそれはすべて偽りだった…彼にね実はお付き合いしている人が他にもいたの…私はすぐに信じられなくて…その相手の人に合わせてもらって…そうしたら…可愛らしい男の人で…相手の方はとてもいい人で…話してみてとても誠実で真っ直ぐな人ってことがわかった…。彼はそれなりに大きな家の人で跡継ぎよ。だから女性のパートナーが必要だった…それでたまたま出会ったのが私で…いつも好意を向けている私に申し訳ないと思いながらも彼と別れる選択はできなかった…けれど…男性でも妊娠ができる薬ができたでしょ?だから相手は女である必要はなくなって…性別を超えて愛し合っている二人を引き離すことなんて私にはできなかった…人にはあんなこと言っておいて私は…ごめんなさい。貴方はとても素敵な人だと思うのだけれど…好きにはなれない」 「…構わないよ。俺も似たようなものだから。似た者同士お似合いかもよ」 その日俺たちは結婚を決めた 一緒にいて気も使わない関係が心地良かった。夫婦のようなことも自然と出来て直ぐに竜胆が俺達の元へ来てくれた 彼女がどうしても声を荒らげてしまうのはきっとそう言う過去があったから そんな話を聞いたからといって俺の性癖は変えられない。どうしようもないのだ 「それでも俺たちにあんな言葉をかけることは許せない」 「そうだな。まだ時間はかかるとは思う…けれど…母さんを嫌わないでくれないか?」 「…答えられない…ごめん」 「そうか…」 父は切なそうに俯いた 「父さんは母さんのことどう思っているの?」 「そうだなぁ。恋愛的なものは一切ない けれど…一緒にいると安らぐし、いないと困る。一心同体みたいな感じかな。俺はあの彼に感謝しているんだ。あの人がいなければ今はない。竜胆や菖蒲もここにはいなかったしな。自分の生きる道は自分で決める。幸せの思いも皆違う。形は色々とあっていいと思うんだ」 「形は色々か…」 「あぁ。本当はさ母さんも理解してると思う。まだ混乱しているだけ」 「だといいけどね。それだけの思いをしてるなら難しいんじゃない?」 その後も会話は堂々巡りでどうしようもない。見かねた菖蒲が言葉を掛けた 「父さん。ここで話していても仕方ないよ。もう俺たちは帰ろう。兄ちゃんもまだ本調子ではないんだし」 「そうだな…竜胆。何かあれば連絡しなさい。」 「あぁ。ありがとう。それと…母さんにご馳走さま…美味かったって伝えておいて。じゃあね」

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