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第32話
「宴も酣ではございますがそろそろお開きにしましょうか」
どこでも聞くようなセリフを今日の幹事である森が言う
「明日出勤の人もいるしねぇ。本当は2軒目…と行きたいとこなのだけどぉ…仕方ないわよねぇ…」
まだまだ話を聞きたいし話したかった。けれど名残惜しいが帰路につくことにした。
店を出ると散り散りに散っていく。残ったのは店長と俺だ
「お前家は?」
「前のとこの徒歩圏内ですよ」
「送る」
「えっ!?」
「いいから。俺が送りたいんだ」
まだ一緒にいたかった俺は戸惑いながらも頷いた。
「ゴメンな…色々…なんか…」
「まさか…そんなに…俺のことを考えてくれるなんて思ってなかったから…驚きました」
「初めてなんだ…人を好きになったの」
「え?」
「俺は…自分で言うのもなんだけど…物心ついたときから人に囲まれて好意を寄せられてきてた。そういったことで悩んだことは一度もない。告白されてもその場限りの付き合いしかしてこなかったし体を繋げればそれでさよならで省みることもなかった。だからお前だって俺に直ぐに惚れてくれるって疑わなかったんだ。それなのにお前には交際相手がいて…そいつを一途に…精神的にボロボロにされながらも思い続けていることが不思議で…そんなにお前を夢中にさせる相手はどんなやつなんだろう…って…」
藍玉side
念願の店に配属なった。光海さんは本当にきれいな人で仕事もできる人で皆に愛される人だった。
入社してすぐ光海さんに恋人はいるのかと質問したら人形みたいな笑顔で頷いた。
相手がいたって相手が男だろうが女だろうが俺に心を奪われた人はたくさんいた。だからゆっくりと俺に興味を向けさせればいい…そう思っていたけれど…
一緒に働き始めて結構な時間を要していたけれど彼が俺に振り向くことはなかった。
ノンケの人は時間がかかるのは理解していたがこんなにも振り向いてくれないことは初めてだった…
相手は女か男か…すごく気になったけど何故か聞けなくて…触れてはいけないような気がして…
悶々とした日々を過ごしているとたまたま光海さんが電話をしているのを、聞いてしまった。
「アイシテルヨ」
愛を囁いているはずなのに何故か顔は強張っていた。
「これから帰るね。明日?うん…そうだね。わかった…またお店ついたら連絡するね」
俺と光海さんはシフトは丸被りさせてもらっている。俺の教育係が光海さんだからだ。
電話を切ると泣きそうに俯いた後何かを諦めたように歩みを進める。気になって仕方なくてストーカーみたいだけど後をつけることにした。
街はどんどん妖しい雰囲気になっていく。ここにはその日の相手を探しによく来ていた。こんな場所に光海さんがいるなんてすごく似合わなくて…
そう思っていると古びたビルにたどり着く。
このビルには犯罪ギリギリの店が立ち並んでいる。こんな危険なところにこの人は何をしにきたんだ…
エレベーターの階数を確認したら特に危ない店だった。
焦って階段で上がると光海さんがある店の前に立ち電話をしていた。止めたくて声をかけようとするけれどあと一歩間に合わず店に吸い込まれていった
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