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第36話
店長自身が俺と一緒にいてくれるわけではないの?
俺のことを好きなんでしょ?
だったら俺が幸せにしてやるって…そう言ってくれたら…俺は…俺はどうした?
「どうした?」
「いえ…ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「…本当はさ…俺がって言いたいとこだけど…さ…俺お前の相手に色々してきてるし…好きだけど…俺では…お前には相応しくないのかなって…」
その時俺でも店長でもない声がした。
「…肝心なとこでそんな弱気なんですね」
ふと振り返るとスラリと背の高い綺麗な男がいた
「あんたは…」
「お久しぶりです。藍さん」
店長と知り合いのようだ。
「彼が話したくれた人なんでしょ?天下の藍さんが臆病になってしまう相手って」
「…ここでバラさないでよ…飛弦さん…」
「たまたま見掛けたものですから…はじめまして。光海さん。俺は店を経営してる飛弦と言います。今丁度買い出しに出ていて…急に話しかけて驚かせてしまいましたね」
そう言いながら名刺を渡された。この界隈でバーを経営しているようだ。お洒落な名刺でどこか物悲しい感じの店の名前だった。
「Tsukisa…これって…月下美人…ですよね?」
「えぇ。そういえば花好きでしたね」
月下美人は夜に咲いて朝を待たずにしぼんでしまうとても美しい花だ。
あでやかな美人、はかない美、秘めた情熱、強い意志、危険な快楽、繊細、ただ一度だけ会いたくて、優しい感情を呼び起こす…いくつもの花言葉を持っている。
一夜しか見られない貴重で美しい花だからこんな花言葉を持ったのだろう。
…その中でも俺はただ一度だけ会いたくて…その言葉が好きだ。
自分には叶わない好きだという思い…そう思える相手に一度でも会えればいいのにといろんな男に抱かれながら思い描いたことがある。
けれどそれはきっと…
「私の大切な友人の為に造った店なんです。彼はとても繊細で美しく強い人です。その彼がパートナーを失ったときの姿を見ていられなくて…けれどその彼はある方と出会い…やっと…過去への区切りをつけ幸せになってくれました…店を出した意味がありました。そういう人が迷わないよう手伝いたい思いは変わらないのでそのまま店をしているんです。私の店に藍さんが初めてきてくれたときは今でも覚えているんです」
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