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第37話
「彼は店ではとても人気がありました。真剣に考えてくれていそうな人とは関係は持たなかったけど、それは相手を苦しめないためなんですよね。一夜限りの相手を求めて通ってらした藍さんがある日を境にお酒を飲むことだけを楽しみに来店してくれるようになりました。そのきっかけが貴方に出会ったこと。貴方のことを真剣に考え迷い答えなんて出なくてもやもやして…そんなときに私と会話をすることでその悩みが少しだけ軽くなるって打ち明けてくれて」
飛弦さんは嬉しそうに俺の知らない店長のことを話してくれる。俺のことを歓迎してくれているのがすごく伝わってきてなんだか擽ったい…
けどそんなの本人に言って欲しかったっていうのが本音で…何も答えない俺に何か思うところがあったのか申し訳無さそうな表情で飛弦さんが俺を見つめていた
「一方的に話してしまいました。申し訳ありません」
謝って欲しかったわけではない。
俺がたった数日で欲張りで傲慢になってしまっただけ
「いえ。知らない部分を知れて嬉しかったです。けど俺実は振られたばかりなのでまだ気持ちには答えてあげられないんです。だってそうでしょ?見守るだけでいいなんて言われてたら安心して俺の人生預けられません」
けどやっぱり諦めきれなくてバカみたいに縋るような…けれど意地悪な言葉しか出てこなかった。
「光海!?それって…」
店長は俺の言葉に動揺したのか赤くなったり青くなったりしていてそれが何だか面白くなってもっと意地悪したくなる。
何をさせても完璧な店長のそんな姿を見られるのが俺だけの特権だと思うとなんだか優越感に似た感情も生まれた。
俺の中にそんな性格の悪い部分が眠っているなんて…俺自身が驚いている。そんな俺に飛弦さんはあんぐりと口を開けてぽかんとした後何か理解したように優しい笑顔をまた見せてくれた
「クスッ…貴方は覚悟を決めていたのに当の本人がこんなならそうなっちゃいますよね」
「…俺…人を好きなることってわからないんです。これまで付き合っていた人はいたけれど好きなわけじゃなかった…初めて好きになれるかもしれないって思えた気がしたんですけど…気のせいだったようです。本当は月下美人の花言葉みたいに、ただ一度だけ会いたくて…その相手にどうかなぁ…って思ったんですけどね」
「意外に言いますね。彼から聞いていたのと違いました」
「幻滅しましたか?」
「いいえ。藍さんが夢中になるのがよくわかりました。藍さん。いいんですか?彼は貴方が思っていたような儚くて守ってあげたいだけの人ではないようです。このままだと誰かの元へ旅立っちゃいますよ」
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