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第51話
藍玉side
実家を見たときの竜胆の驚きの表情に緊張する。
また良からぬことを考えていないか不安になる。
「すごい…」
これまで俺は友人たちを屋敷に招いたことはない。けどみんなそう呟くのだ。
「祖父さんの趣味でな。奥には池があって鯉が泳いでる」
「えぇ!!すごい!」
俺は祖父さんっ子だったので褒められることがすごくうれしかった
「後で庭行くか」
「ううん。また機会が訪れるように頑張る」
…そんな言葉が貰えるなんて思っていなくて正直泣きそうだ…
「ありがとな。抱きしめさせて?」
「うん」
涙を見られないようぎゅっと抱きしめ一杯に竜胆の落ち着く柔らかい匂いを吸い込んでそっと離した。そして目の前の重苦しい玄関に手をかけた
「お帰りなさいませ。藍玉さま」
何人もの使用人が一斉にお辞儀をする。見慣れた光景だったが久しぶりで俺まで気後れしそうだ
「親父は?」
「旦那様は書斎でお待ちです」
「ありがとう。もう下がっていい」
機械仕掛けの人形のように皆同じように同じタイミングでお辞儀をするとさーっと持ち場へ戻っていった。
「…こんな家…ドラマとか映画の世界だけと思ってた…」
「引くだろ?」
「ううん。なんか偉くなったみたいでゾワゾワした…」
「親父もおふくろも何もしないからな。無駄に使用人がいるんだよ」
「でもここがあるから彼らは生きていられるんでしょ?ここからお金もらってるんだし」
「そうなるな。かなり厳しい教育を受けてきてる奴らばかりが選ばれている。必要以上の会話はしたことがない」
「…なんか…少し寂しいね。こんなに人がいるのに気配を感じない」
「そうだな。ここが書斎だ」
柄にもなく緊張していた。それを紛らわすためもあるが竜胆を感じていたくて手を取った。ノックすると部屋の中から俺とよく似た声が響いた
「入れ」
「失礼いたします」
「久しぶりだね。藍玉」
始めに俺に声をかけたのは双子の兄である天河だ。天河は俺と違いフランクで誰とでも直ぐに仲良くなれるような人間だ。
「天河も久しぶりだね。竜胆。俺の双子の兄だ」
「はじめまして。君の話はよく聞いてるよ。急に呼びつけちゃってごめんね」
竜胆が少し戸惑っているようだ。大体みんな始めはそんな風になる
俺が部屋に入ったと同時に俺の手を取ったのは弟の琥珀だ。かなり年は離れているがたまに連絡が来て一緒にでかけたりもする。
妹の透輝は少し人見知りだがきれいな人が好きだ。だからさっきから竜胆に釘付けになっている。
「これが弟の琥珀。隣が妹の透輝そして…」
目の前にすっと立ち上がったのは父だ。俺は自分でも父によく似ていると思う。
「父の玻璃。妻のリシアだ。突然のことで驚かせて済まないね」
母は異国の血が入っていてきれいな人だと我が親ながら思う。若い頃と変わらないスタイルと美しさでみんなに羨ましがられたものだ。
天河は母によく似ている。朗らかでいつも優しく微笑んでいるところなんかはそっくりなのだ
俺の家族を見たら気後れするかもしれない…そう思いそっと竜胆を盗み見ると凛とした姿でしっかり親父を見据えていた。
子供の俺でさえなかなか出来ないことを竜胆はするのだ。それに感心していた
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