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第52話
店長の家族はまさに華麗なる一族って感じで空気もなんだか普通の違うから内心冷や汗ものだがここで引いてしまって俯いたらダメな気がしてすっと背筋を伸ばし親父さんをまっすぐ見つめた。
ちっとも怖くない。だって店長によく似ているから。意思の強い眼差しもその奥に見える思いやりも
「初めまして。光海と申します」
しっかりお辞儀をしてもう一度顔を見た。
「…ほう…」
親父さんは静かに皮肉めいた笑顔を浮かべた。
「藍玉さんとお付き合いさせていただいています。宜しくお願いします」
「藍玉から話は聞いているかい?」
「はい」
きっとお見合い相手がいて後継者だということだろう
「君は藍玉には相応しくない。調べさせてもらったよ。君のこと」
「…」
「家は普通の家だね。お父様はサラリーマンでお母様はパート従業員。弟さんは…うちの会社の傘下の会社で働いているね」
そうなのだ。菖蒲はこの大企業の傘下のIT企業で働いている。みんなによく知られた大きな会社で両親の自慢なのだ
「君の弟さんはとても優秀で評価も高い。ただあまり上昇志向ではなくなかなか上にはあがれない」
上がれないわけではない上がらないのだ。元々興味がないし役職を持ってある程度動きが制限されるのが嫌だと言っていたのだ。
次から次に溢れてくるアイデアも上なら忖度が必要になることがある。けど今の立場なら話ができるのだ
「君の弟さんのアイデアは面白い。自由な発想が素晴らしい。それを埋もれさせてしまうのは勿体ない。だからね、彼には彼の自由が効く新しい会社を任せたいと思っているのだ」
「…」
「けれどね、それには条件がある。藍玉と別れてくれ」
「嫌だ!」
俺が口を開くより先に店長が声を上げた。
「お前は知っているんだろう?彼がこれまで何をしてきたのか」
「知った上で交際している」
「彼のことが明るみに出たら彼らの家族はどうなるのだろうね」
「そんなことさせない。知っているでしょ?そういうのを出さないのは俺が一番長けていること」
「今はね、藍玉。たった一人の小さな投稿が大きくなる時代だよ?手はいくらでもあるんだ」
これまで経験してきたことは将来足枷になることはわかっていた。それでもここに着いてきたのは店長に一縷の望みを掛けたかったから…
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