53 / 67

第53話

「私はね、竜胆くん。君のことは嫌いではないよ。けれど会社全体のことを考えるとね許すわけにはいかないのだ」 「…はい。わかっています。許されないことも承知していました。けれどこれだけは言えます。私の気持ちに嘘はありません。ここで、はいわかりましたでは別れますと引き下がった結果弟が会社を持てたとしてもきっと弟は喜ばない。早々に辞めてしまうと思います。彼は俺とは違い責任感が強いですからきっと一生自分を悪だと思いこんでしまう。 それと…藍玉さんがどなたかと結ばれたとしても私は彼を思い続けてしまいます。きっと彼も私を思い続けてしまうでしょう。そうなった場合相手の方は深い傷を追ってしまうかもしれない。いい気はしませんよね。そんなこと。会社は良くなるのかもしれない…けれど…幸せのカタチは変わってしまう。この家に来てあなた達にお会いできてとても感じたのです。本当は誰よりも家族を思い大切にすることを」 「…本当に…面白いね。君は…」 「あなた…」 隣で静かに微笑んでいたお母様が親父さんに声をかけた 「もうそのへんになさってはいかが?意地悪なんだから…良くわかったのでしょ?彼がどういう人間なのか」 「…ふふ…そうだね。天河」 「ん?」 「扉を開けて」 「はいはぁい」 そのまま俺は部屋から追い出された。自分の立場を弁えず言い過ぎたのだろう。 「竜胆くん。俺とお話しよっか?」 そう言うと天河さんは俺を促し歩き出す。 「ははっ。そんな不安そうな顔しないで。」 「…貴方が後継者ではなかったのですか?」 「あぁ。まぁそうだね。それなりに勉強してきたし働いてきたしね。けどやっぱり藍玉の方が向いてるんだよ。上に立つってこと。俺はへーこら頭下げてヘラヘラ笑ってゴマすりながら生きてる方が合ってるんだ」 「…うそ…ですよね?」 この人はとても良くできる人だ。長年サービス業をしていると自ずと相手がどんな人間なのかわかってくるものだ。 軽薄そうな笑みもチャラチャラした見た目も物言いも全てこの人の偽りだと思う。 初めて会ったからその判断で合ってるかわからない。けれどさっきの言葉は偽りだって何故かわからないけれど確信していた 「本当に君は面白いよね」 「変わってるとは言われてきました」 「そんな君が変な輩に捕まるとはね」 「…藍玉さんのことですか?それとも過去のことですか?」 「全部。君は見る目がないんだね。素晴らしい観察眼を持っているのに自分のこととなるとてんでだめだね」 「そうですね。否定はできません。けれど藍玉さんはそんな俺に希望を見せてくれた大切な人です。さっきも行った通り俺は藍玉さんを思い続けるでしょう。俺はどっちにしてもあの人の枷になる。それは変わらない真実です。けれど諦められない想いがあるんです」

ともだちにシェアしよう!