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第54話

「それさぁ俺で良くない?」 「は?」 「俺さ実は君のこと知ってるんだ。ここに来るずっと前からね」 そう言うと一歩こちらに近づいてくる。真っ直ぐな眼差しがやっぱり店長に似てて固まってしまった 「くすっ…君はやっぱり可愛いね」 そう言うと天河さんが俺に手を伸ばす。 「…」 「ちょっと…逃げなくて良くない?」 触れられる直前俺は一歩引いた。行き場を失った天河さんの手が空を切った 「失礼だなぁ…これでもモテるんだよ?俺。おっかしいなぁ…これまでの子ならそれで俺に素直に抱きしめられてたのに」 「俺はもう藍玉さん意外の誰とも触れ合いたくないんです。彼が自分を大切にしろと言ってくれたから」 「藍玉一人で治まるのかなぁ?多くの人に抱かれてきたのに」 「彼となら交わらなくても側にいられるだけで…それだけで満たされるんです…」 「藍玉に操を立てるのは早いんじゃないの?いいじゃん一回くらい。やろ?今更っしょ?」 今度は逃れられなくて彼の腕の中で藻掻く 「りんくん」 その時走馬灯のように俺の記憶が呼び戻された。この声… 「あんた…」 「久しぶりだね」 彼は俺がよく連れて行かれたハプニングバーのキャストだ。 「りんくん。大丈夫?どうしてそんな男に固執するの?逃げちゃえばいいのに…君はもっと自分を大切にした方がいい」 あそこのステージで派手に抱かれた後疲れ果てていると必ず同じキャストが世話してくれたのだ。その声だ 「お久しぶり」 「…こうさん…」 「よかった。思い出してくれた?俺ね学生時代社会勉強とかまぁ色々兼ねてあそこで素性隠してバイトしてたの。だから君のことはよく知ってるんだ…流石にそのままだとバレるかもしんないからウィッグとメガネとマスクで変装してたんだけどね。君があの男に好き好んで抱かれているとは感じたことはなくて…心配してた。ある時藍玉が来てね、その日を境にその男は来なくなった。勿論りんくんもね。藍玉にはそこでバイトしているのは伝えていたんだけど他人のふりをしていたんだ。あいつが良く来てたのは俺の様子を見に来ていたから。けどあの空気感があいつには合わなかったみたいでさ、それから足は遠のいたんだけど。俺はあいつよりも先に君が店を利用していたのを知ってたんだ」

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