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『なにがそんなに不安なの?別にエッチだけが愛情表現じゃなくない?あの人見知りでコミュ障な龍樹が、いくら運命の番って言ったって出会って1年の他人と暮らしてる時点でお兄ちゃんとしてはかなりびっくりなんだけど。』
「そうなんだけど…」
『けど?』
「好き、とかも、言ってくれないし…」
消え入るようにそう言って、優弥は黙ってしまった。
結局そこなのだ。
キスもエッチもしたいけれど、要は愛されている実感が欲しい。運命の力に引き寄せられただけではないのだと、番にしてしまったから一緒にいるわけではないのだと実感したいのだ。
はぁ、と重苦しい溜息を堪えることが出来ず、優弥はがっくりと項垂れた。
『…あいつ、多分したくても自分からなんてそんなに誘えないだろうから。先生から誘ってあげれば?』
「引かれないかな…」
『引かれたら大人しく龍樹がその気になるのを待つしかないんじゃない?あいつも色々思うところがあるんだろうし。』
その時、電話の向こうから微かに水樹を呼ぶ声がして、そのまま挨拶だけで通話は切られてしまった。
あの声は水樹の番の水無瀬だった。いや、もう彼は水無瀬の姓ではないのだから、唯と呼ぶべきなのだけど。
あの作り物のような美しい顔をほわりと破顔させて水樹の名を呼ぶ姿、あんな風に呼んでもらえたらそれだけでも愛されていることを実感できそうなのに。
「はぁ〜…ラーメンでも作ろう…」
水樹が心底羨ましい。
そんな風に思ってしまうのは、この4ヶ月で何度目だろう。確か彼らは番になって3〜4年の筈。自分たちもその頃にはお互いを理解し合ってラブラブで甘い言葉と態度を交わす間柄になれるのだろうか。
と、想像を巡らせて見たものの、龍樹にはそもそも愛想がない。時が経てば経つほど会話すらも減っていくような気がしてしまう。
袋から出して茹でるだけのインスタントラーメンを1人ですするのも、綺麗な広めのお風呂に1人で入るのも、折角買ったダブルベッドに1人で潜るのも当たり前になってしまった。
そしてうつらうつらし始めたころに龍樹が帰ってくる気配がするのだけど、龍樹はそっと優弥の様子を伺って寝室から出て行く。
こんな筈じゃなかったのに。
不安ばかりが募る同棲生活。
龍樹の寝息を聞きながらギュッと痛みを訴える胸を押さえたのは、一体何度目だろうか。
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