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それからというもの、優弥の日課にネットサーフィンが追加された。検索ワードにある履歴は、絶対に誰にも見せられないものばかり。
初めてのセックスに踏み切るきっかけ作りを調べてみても、雰囲気のあるところにデートしたところで龍樹はまだ酒が飲めないし、同じ家に帰ってきて後の流れはいつもと同じというのは目に見えていた。
旅行に行ったって、布団は毎日共にしているのだ。変化ない。
ならばとセックスレスの解消方法なんて検索してみたりもしたけれど、そもそも盛んだった時期がない。いきなり刺激的なアブノーマルプレイを提案されても、それこそ引かれそうで実行になんて移せるわけがなかった。
だというのに興味ばかりが唆られてしまって、優弥はこの数日で随分と変態プレイの引き出しが増えてしまったのだった。
───
そんな日課がバレてしまうのは意外と早かった。
というのも、優弥が仕事に使っているノートパソコンのディスプレイにピンク色のページをいくつも開きっぱなしのまま風呂に入っている間に、龍樹がいつもより早い帰宅をしたためである。
ほかほかと身体から湯気を立てて、毎日恒例の風呂上がりのビールを一本、なんて思っていたふやけた頭は、パソコンの前に立つ龍樹の姿を見て一瞬で冷えた。
「たっ…………!?」
「あ、ただいま。」
「たつっ…お、おかっ…たっ…!!」
「何言ってるのかさっぱりわかりません。」
これお土産です、と渡されたのは、優弥の大好物の唐揚げだった。以前話してくれた、大学の近くにあるという総菜屋の名物唐揚げだ。
それは既に冷めきっていたが、見るからにジューシーでサクサクしていそうでとても美味しそうだ。優弥のお腹はわかりやすく主張を始めた。
「きょ、今日は早かったんだね!俺もご飯まだなんだ、一緒に食べよ!」
パソコンを見られた気まずさとお腹が鳴ってしまった恥ずかしさを誤魔化すように冷蔵庫を開けて、ビールを一本と龍樹のための麦茶を差し出す。そして慌ててパソコンを片付けに入ると、龍樹が凝視していたディスプレイにはバッチリピンク色のワードが並んでいた。
いくつも開かれたブラウザを一つずつ消していく。全てのブラウザがピンク色の雰囲気だ。
それらを消していくのがなんとも恥ずかしくて情けなくて、ちらりと後ろを振り返ると、龍樹とバッチリ目が合ってしまった。
しかし次の瞬間、サッと逸らされる視線。
龍樹はそのまま、着替えのために優弥に背を向けてクローゼットを開けた。その背中が、なんだか拒絶されているように感じる。
『あいつも色々思うところがあるんだろうし。』
不意に水樹の言葉が蘇って、ジワリと目尻に涙が浮かんだ。
そういえば、龍樹くんって小さい時にレイプ現場見ちゃったんだっけ。
触れないようにしている龍樹の過去を思えば、性行為そのものに嫌悪感があったとしても少しも不思議じゃない。
それなのに、自分の欲望ばっかりで仕事のパソコンを使ってこんなことを毎日検索したりして。
恥ずかしい。
真っ黒になったパソコンのディスプレイを眺め、パタンと閉じると、龍樹が買ってきてくれた唐揚げが目に入った。
エッチだけが愛情表現じゃない。
本当にその通りだ。こうして好物を覚えていてくれて買ってきてくれて、一緒に食べて、十分幸せじゃないか。
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