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割れたグラスを片付けながら、龍樹は小さく語り出した。 「…俺は、情けない話ずっと水樹に付いて回ってたので、自分のこともろくに1人じゃ出来ません。あいつは何でも先回りしてくれてたから、自分でなんとかする必要がなかったので。」 バツが悪そうに語り、一旦口を噤んだ龍樹は掃除機のスイッチを入れた。煩いモーター音に混じって、ガラスの破片が吸い込まれるザラザラとした音がする。 龍樹はついでと言わんばかりにキッチン全体に掃除機をかけて、電源を落とした。 「…じゃなくて、なんて言ったらいいんだろう…ちょっと待ってください。」 龍樹は下を向いてなにか考え込んでいる。時折頬をかいて小さなため息をついている。 なんとなくそれが、言外に面倒くさい、と言われているような気がしてきて、優弥は龍樹を見ていられなくなり俯いた。 チン、と高い音を立てたトースターから良い匂いが漂ってくる。 折角龍樹が買ってきてくれた大好物の唐揚げが温まったというのに、ちっとも心は踊らない。最低の気分だった。 「えーっと…だから、どうしたらいいのかわからないっていうのが、本音です。」 龍樹の静かな声が、先ほどよりも近い。ちょっとだけ視線を上げると、真っ赤になった顔を逸らしながらも優弥の前にしゃがみこむ龍樹の姿があった。 「…最初…番になったあの時、あんなだったし…先生の方が嫌なんじゃないかって、思ってました。」 小さな小さな告白を優弥が理解するのに、少しの時間が必要だった。 恐らくぽかんと口が開いた大変間抜けな顔で龍樹の顔をまっすぐに見上げると、先ほどよりも真っ赤で、耳や首まで赤くなった顔をなんとか腕で隠そうとしている。が、全然隠しきれていない。 かわいい。 龍樹の言葉が段々と理解できてくるにつれて、優弥の心を満たした言葉はそれだった。 ほかほかと心に温もりが戻ってくる。同時に体もなんだか温かくなってきて、優弥の強張ったままだった表情が和らいだ頃。 「…抱き締めても、いい、ですか…」 火でも噴くのではというほど顔を赤くして、夏の穏やかな夜風に揺れる窓枠の音にも負けてしまいそうな小さな声の問い掛けに、優弥は考えるまでもなく頷いた。 そして漸く龍樹がちらりとこちらを見てくれて、視線が合う。可哀想なくらい赤くなって、羞恥のあまり涙目になっているように見えた。 おずおずと伸ばされる手。 そっと重なった指先は温かかった。 クイと弱い力で腕を引かれて、抗うことなく龍樹の胸に倒れこむ。 ぽすんと肩に顔が埋まると、久しく感じていなかった愛しいフェロモンを感じることができて、優弥はあまりの心地よさにうっとりと目を閉じた。 ふんわりと背中に腕を回される、緩い抱擁だった。 体温とフェロモンと龍樹の鼓動、それら全てを優弥の全身が欲している。それは決して暴力的な性衝動などではなく、むしろ穏やかなものだった。

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