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もぞりと身動ぎしてそっと抱き返すと、触れた部分がしっとりと吸い付いてくるような感触がする。 それが嬉しくて思わずギュッと抱き着くと、目の端に捉えた龍樹の耳が赤くなった。 「ずっと悩んでたの?」 「…かなり前から。」 「ふふ、そっかぁ。俺も龍樹くんが高校卒業してからずっと待ってた。」 「…すみません。」 「ううん、俺の方が大人なのにね。ごめんね。」 僅かに感じる龍樹の鼓動がなんだか早くて、妙に安心する。 龍樹が自分に触れることを迷う必要なんてこれっぽっちもないのに、あの半ば強引な番契約を気にしていてくれたことが何もよりも龍樹の愛情の深さを物語っている気がして、優弥は心の中にできた氷山が瞬く間に溶けて穏やかな春の風を吹かせたのを感じた。 今なら言えそう。 優弥は少しだけ勇気が湧いてきて、龍樹の腕の中で深呼吸した。 「俺、は…龍樹くんとキスしたいし、その、エッチも、したい…です…」 言った。 言ったぞ水樹くん。俺は言った。誘ったぞ、俺は。 呆れ返った顔でハイハイ頑張ったねと返される気しかしないが、優弥は今この上ない達成感に満ち溢れていた。今すぐにでも電話をかけてこの一連の流れを報告したいくらいには。 しかしそれは叶わなかった。 緩い抱擁が解かれ、龍樹の細いながらに大きな手が優弥の華奢な肩に触れる。澄んだ瞳の中にキョトンとした間抜けな自分の顔が映っていた。 ゆっくりと二人の距離が縮まって、龍樹の瞳の中の自分が期待に満ちたとろりとした表情になった。 あ、キスされる。 そう思うと同時に優弥は目を閉じて、ふわりと唇に触れた柔らかくて温かい感触に、この上ない幸せを感じたのだった。 触れるだけの口付けはほんの一瞬で、すぐに離れて行った。 けれど目を開くと、龍樹の瞳が僅かに欲望を滲ませているのがわかる。それを見てしまったら、ドクンと期待に身体中の血が沸騰するような感覚が走った。 もう一度、今度は優弥からキス。 啄ばむような戯れのようなキスは角度を変えて徐々に深くなり、しかしそれでも物足りなくて優弥は龍樹の首にしっかりと腕を回し抱擁を強請った。 すると今度はしっかりと抱き締められて、二人の距離はゼロになった。 静かな夜に響く口付けの音。 いつまでそうしていたのかは定かじゃない。 「シャワー、浴びてきます。」 それが長い夜の始まりの合図だと気付かないわけがなかった。 寝室で一人微かなシャワーの音を聞きながら壊れそうなほどに高鳴る胸を抑えるために枕を抱く。ほんの10分やそこらだったはずなのに何時間にも思えたその一人の時間の終わりは、愛しい人の優しい抱擁が告げてくれた。

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