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第21話

暫くお互い無言だった。 水樹はすっかりリラックスしている風だったが、龍樹はやはりどこか落ち着かない。 何度か様子を伺ってみたが、それにも気付いていないようだった。 折角出してくれたお茶も冷めてしまった。 「…聞いてもいいか」 やっとの思いで口を開いたのに、水樹はキョトンと間抜けな面構え。 少しの間まじまじと顔を見てきたが、やがて小さくこくんと頷いた。 「水樹は…その、水無瀬と初めて会った時のこと覚えてるか?」 「…へ」 また、キョトン顔。 無理もない、龍樹の口から二人の関係に関与することはほとんどないからだ。 今でこそ水無瀬と水樹は番として周りにも認知されているが、元々水無瀬は龍樹と恋人同士だったのだ。 あの日の出来事は確かに不運が重なった上での事故だったし、被害者は一生ものの鎖に繋がれてしまった水樹だ。 だというのに水樹は泣いて謝った。 ごめん、ごめんなさい。 悲痛な声でただそう繰り返す水樹を見て、水無瀬とは何もなかったことにしようと決めた。 手助けはしても口出しはしないと。 だから龍樹がした質問を怪訝に思ったのかもしれない。 いや、もしかしたら聞かれたくなかったのかも。 「悪い、やっぱ」 「いいよ、なに?覚えてるよ」 やっぱりいい、という言葉を遮って、水樹は脚を組み替えた。 「水無瀬の存在を知ったのは中等部の入学式だけど、会話したのはずいぶん後だよ。中1の秋かな…ほら、ジャージ借りに行ったでしょ、あの時」 明後日の方向を向いて語り出した水樹の表情は読めない。 懐かしんでいるようでありながら、どこか必死で記憶を手繰り寄せているような。 或いは、言葉を探しているような。 「ほんとにびっくりしたよ、噂通り絵画から出てきたみたいなんだもん。でも、」 そこで一旦水樹は言葉を切った。 そして次の言葉に、龍樹は驚愕した。 「…怖い人だな、と、思った」

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