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第23話

なかなか寝付くことが出来ず、龍樹は眠ることを諦めて身体を起こした。 時刻は3時を過ぎた所だった。 隣では水樹が穏やかな寝息を立てて眠っている。 2人で一つの布団に入るのは久し振りだった。 普段から幼い容貌が、目を閉じていると余計に幼く見える。 双子だから年は変わらないが、まるで小さい弟が眠っているようで龍樹は微笑みを零した。 あのあと水樹の部屋で夕飯を馳走になり、そのまま流れで泊まっていくことになった。 水樹の手料理は懐かしい実家の味がして、学食の濃い味付けに慣れた龍樹に安心感を与えた。 水無瀬は舌がバカだから味がしないって文句言うんだ、と憤慨する水樹の表情は明るく、疲れ切った龍樹の心に癒しを与えてくれた。 Ωの水樹をαの自分が守っていたつもりだったが、結局いつだって助けられているのは自分の方。 目にかかっている前髪をそっと払ってやると、ひくんと長い睫毛が揺れた。 起こしてしまったかと焦ったが、水樹はそのまままた寝息を立て始めた。 (…怖い人、か) 人間、どんなに成長したって結局は強く綺麗で優しいものが好きだ。 αという生まれながらの強さ。 並外れた美しい容姿。 柔和な笑顔と語り口。 水無瀬に第一印象で悪い印象を抱く要素があるとは微塵も思っていなかったので、自分に最も近しい水樹がそんな印象を抱いていたのが少しショックですらあった。 するりと手に何かが触れる。 少し視線を下げると、眠っていたはずの水樹がこちらを見ていた。 「眠れない?」 控えめに微笑んでゆったりと落ち着いた口調で話す水樹は普段と掛け離れてどこか色っぽい。 潜めた声も、気怠げな視線も。 こんな水樹は知らない、と龍樹は少し狼狽した。 「…悪い、起こしたか」 水樹はゆっくり首を振った。 色っぽい、と感じたところで水樹に劣情を覚えることはないのだけど、いつの間にこんな表情をするようになったのかと邪推してしまう。 くい、と寝巻きに借りたジャージの袖を引かれる。 借りたと言っても元々は龍樹のジャージで、水樹は度々龍樹のお下がりを貰っては着丈を随分余らせて着ていた。 「横になって目を瞑るだけでも休めるよ」 そう言って布団の中に招かれて、抗うことなく倒れ込めば、少し強引に水樹の腕に抱き込まれた。 とくん、とくん、と規則的に温かい音がする。 遠慮がちに腕を背に回すと、まるで子どもを相手にするように頭を撫でられた。 細い背中だ。 龍樹の髪を遊ぶ手も、小さく頼りない。 けれどその背に、掌に、ひどく安心する。 今なら眠れそうだ。 龍樹はそっと目を閉じた。

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