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第28話
「保温しっぱなしでちょっと硬いかも。龍樹がねぼすけだから仕方ないねー」
こちらを見ないまま水樹がふふっと笑う。
ゆっくりと水樹に近寄ると、普段は髪の毛とシャツの襟に隠れてあまり見えないそれが姿を現していた。
噛み跡。
水無瀬との、番の証だ。
吸い寄せられるようにその項に手を伸ばし、ほんの少しだけ指先が触れたその瞬間。
「…っ!?」
ガチャン!
と鈍い音を立てて茶碗が割れた。
2人の間に張り詰めた空気が流れる。
触れられた項を守るように手で覆い、大きく見開いた目で自分を見上げる水樹は、誰がどう見ても怯えていた。
その水樹に思い切り撥ね付けられて行き場を失った龍樹の手は、所在無くその場に浮いている。
「あ、…ごめ…」
水樹が発した声は弱々しく震えていて。
らしくないその声が、今の水樹の動揺の程を物語っていた。
その声を聞いて龍樹は激しく後悔する。
驚かそうなんて、ましてや脅かそうなんて。
水樹が心穏やかに過ごせることを第一にずっと生きてきたのに、自分が怖がらせてどうする。
まだ怯えを滲ませたその瞳は信じられないものを見るように龍樹を凝視して、そして少ししてから深く息を吐いた。
「なに、なんか付いてた?」
「あ、あ…ゴミ」
「もー言ってよ!びっくりしたなぁ」
「悪い…」
急所だよ急所!
と続けた水樹はもういつも通りだ。
その場に突っ立って呆然としている龍樹の足元に散らばった茶碗の破片と無駄になった米を拾っている。
水樹はこういう気持ちの切り替えが異様に上手い。
龍樹はといえば、撥ね付けられた手をじっと見つめることしか出来なかった。
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