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第32話
「はぁぁ〜、なんか俺よりたつきくんの方がずっと賢い…やっぱりαってすごい…」
あれから、落合は龍樹が取り組んでいた英語の課題を手伝うと申し出てきて。
担当教科は違うものの、大学で英文もしっかり学んだという落合に課題を見てもらったのだが、途中でかなり難解な一文にぶち当たり、2人でああでもないこうでもないと悪戦苦闘した末に、落合は項垂れた。
「別にαとかあんまり関係ないと思いますけど」
「いーや、ある!少なくとも俺がどんなに頑張ったって、たつきくんより良い和訳はできない!」
ちくしょー、と頭を掻く落合は本気で悔しそうだ。
再びブツブツ言いながらテキストに向かう落合は、元来学ぶのが好きなのだろう。
Ω差別反対運動が盛んとはいえ、まだまだΩは社会的に不利だ。
発情期があるせいで、コンスタントに働くのが難しい場合がある。就業中に発情期を迎えたりしたら、それこそ騒ぎになりかねない。
そんな中で、Ωもαも通う種に寛容な学校とはいえ、教師を生業にするのは大変だっただろう。
龍樹は素直に感心した。
「…どーでもいいけど字汚すぎ」
「ちょ、人が気にしてることを…」
比較的整った龍樹の字の横に、まるで小学生が書いたような歪な文字たち。
教師、取り分け国語系の教師は字が綺麗なイメージがあった龍樹はそれが意外で、失礼だとは思ったが少し笑ってしまった。
すると落合の大きな瞳がより大きくなったのを見て、龍樹は訝しげに眉を顰めた。
「なに」
「笑った…」
「は?」
「笑った!」
かと思えばまるで子どものようにはしゃぎ出す。
目紛しく変わる落合の表情に、若干置いて行かれた。
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