37 / 131

第37話

落合は浮かれていた。 ニマニマとしまりのない顔に、どこか浮き足立った後ろ姿。心なしか脳天に花が咲いているようにも見える。 校内は1週間後に控えた期末試験のために、特に3年生はピリピリして近寄り難い。 高校生になったばかりで気が抜けている1年生でさえ、夏休みの補習を回避しようと躍起になっていた。 それに呼応するかのように、先生方も毎日遅くまで残ってテストの作成に精を出している。 本来なら落合もその中に加わっているはずだ。 新卒の新米教師、どの程度の難易度に設定し、どんな問題なら全員が平等に普段の実力を発揮できるのか。 先の中間テストでは難しくしすぎたのか、酷い平均点を叩き出してしまい、学年主任に渋い顔をされてしまった。 にも関わらず落合がこうも浮かれているのは、言うまでもない。 龍樹との関係が思った以上に良いものとなっているからだった。 図書室で龍樹の課題を手伝った…というよりは、共に格闘したあの日から一週間弱、龍樹は毎日図書室に来ていた。 落合も赴任してからほとんど毎日図書室には顔を出していたので、必然的に毎日顔を合わせている。 龍樹は鋭い物言いはするものの、以前のような刺々しさは微塵もなく。 時折笑顔を見せてくれることもあって、それがとても嬉しくて幸せで。 それに、昨日はついに聞くことができたのだ。 (橘、龍樹くん) ようやく聞けた彼の名前を落合は心の中で何度もその名前を繰り返しては、緩んだ頬をさらに緩ませて。 少々不審にも見える。 『一文字で橘。面倒な方の龍に、大樹の樹』 サラサラと書いてくれた名前は、綺麗に整っていたものの、少し右上に傾いていた。

ともだちにシェアしよう!