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第39話

「…みずきくん、どうしたの?」 「あ、俺のこと覚えててくれたんですね」 小首を傾げながら微笑む姿はとても可愛らしい。 以前のような冷たい瞳を向けられているわけではなく、とても好意的だというのに、一体なにに怯える必要があるのか。 にこにこと微笑みながらゆっくりと近付いてくると、ふんわりとフェロモンが漂ってくる。 龍樹とは違う、αのフェロモン。 (ああ、そうか) 双子の兄弟。 それにα家系だと言っていた。 この前は気付かなかったが、目の前の彼もまた、Ωの自分を支配する側の人間なのだろう。 そう思うと、この漠然とした恐怖にも納得がいく。 「先生さ、毎日毎日放課後どこ行ってるんですか?」 「…え?」 「いつも職員室にいないって」 落合はぽかんと口が開いた。 何を聞きたいのだろう。 落合は1年生しか教えていないので、水樹とはほとんど会う機会がない。 実際会ったのは、まだ2回目。 図書室にいる、と一言答えればいいだけの質問なのに、なぜか答えるのを迷われる。 折角の逢瀬を邪魔されたくないのももちろんあるが、それ以上に、自分の動向を知られるのが怖かった。 落合も、龍樹だからこそ簡単に許してしまったものの、親しくないαにほいほいついて行ったりするほどバカではない。 そんなことをしていては身が持たない。 とは言えここで答えないのは不自然だ。 嘘を吐いたところですぐにバレるだろう。 龍樹が図書室に入り浸っていることなんて、兄であるこの子はきっと知っている。 その龍樹に、まさか下心ありありで近付いているなんて。 そしてふと思う。 (一目会いたいと思う気持ちは、下心になるのかな)

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