40 / 131

第40話

どうしよう。 口籠るしかない落合に、水樹はとうとう痺れを切らした。 「やだな、言えないようなところにいるの?」 「や、その…」 言えないようなところにいるのではなく。 言えないような目的を持っているなんて。 時間が経てば経つほど不審だ。 わかっているものの、時間が経てば経つほどどうしていいかわからなくなる。 水樹の顔を直視できない。 漂ってくるαのフェロモンが怖い。 重苦しい空気が漂って嫌な汗が背中をつたう。 こんな状態では何を答えたって嘘に聞こえるかもしれない。 情けないことに涙さえ浮かんできた時。 「佐々木が課題出したいのに会えないって」 「へ?」 「だから佐々木が会えないって」 佐々木って誰だっけ。 あ、デジャヴ。 確か水樹と初めて会った時も、当たり前のことを疑問に思ったのを思い出した。 あの時はそう、龍樹が双子と聞いてショートしたんだっけ。 佐々木と言う名の教え子は1人いる。 どうしようもないくらい漢字が苦手で、お前は小学生かと言いながら特別に課題を出した生徒だ。 「佐々木くんと、知り合い?」 「部活の後輩です。あいつ、どーしようもないくらいバカでしょ?」 ふふ、と笑うその顔に先の威圧感はない。 ころころ変わるその表情は年の割に幼く見えて、そしてやっぱりこの子かわいいと思うのだった。 しかし、だからこそその笑顔に油断してしまう。 「このあと部活で会うからさ、伝えておきますよ」 「あ、そうだね!ありがとう…」 あれ。 「いつも放課後は第2図書室に…」 「へぇ、現国でしたよね?やっぱ本好きなんですか?」 なんか。 「うん、ここの図書室広くていいよね」 「俺ほとんど行ったことないなぁー…龍樹は本ばっかりだけど俺はさっぱり」 これは。 「うん、龍樹くんいつもいるよ、すごい本好きなんだなって」 「知ってるよ」 もしかして。 「龍樹が図書室に行ってるのなんて、知ってる」 やっぱり。

ともだちにシェアしよう!