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第42話
龍樹はα家系の、それもどうも名家の出のようだ。
龍樹自身がどうかは知らないが、α家系の人間は他性、特にΩ性を家系に入れることを嫌う傾向にあることは落合ももちろん知っていたし、それ以前に自分たちは教師と生徒だ。
兄である水樹からしたら、悪い虫以外に適切な表現などないだろう。
落合は下を向いてグッと唇を噛んだ。
「…龍樹くんとは何もない」
「当たり前だよ、何かあったら困る」
少し笑いを含んだ言い方ではあったものの、冗談ではないことは水樹の目を見れば一目瞭然だった。
そう、何かあったら困る。
自分も龍樹も、その周囲も。
常識や倫理が許さない。
いくら龍樹を欲して焦がれても、それは押し殺すしかない。
運命なんて所詮都市伝説でしかないから。
欲しい、彼のものになりたい。
叫ぶ本能。
救いたい、彼を支えたい。
訴える心。
彼の未来を奪いたくない。
本能も心も押し退けて声をあげる理性。
落合本人も、自分自身がごちゃごちゃしてわからなくなっていた。
わからないからこそ、図書室で談笑するだけの生温い関係が心地良くてちょうど良かった。
じっと落合を見ていた水樹は、難しい顔で俯いてしまった落合を探るように暫く見つめていたが、その表情をふっと緩めた。
「先生のことが嫌いで言ってるんじゃないですよ」
思いの外温かい声でそう言われて、落合はゆっくりと顔を上げた。
ただね、と続けた水樹の表情は、微笑んでいるもののどこか苦しそうで。
まだたった17〜18歳だというのに、龍樹にしろこの子にしろ、一体何がそうさせるのかと思ってしまう。
「ただ、龍樹はやめた方がいい」
そしてその口から出た言葉は、落合にとって意外でしかなく。
「龍樹はΩが嫌いだから」
そう言った水樹は確かに笑みを浮かべていたが、落合には泣いているように見えた。
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