44 / 131

第44話

「ここに来て2時間弱の間に先生が吐いた溜息の数」 そしてその数の真意に驚いて、また首をひねる。 そんなに溜息ばっかりついてたっけ。 ため息というのはわざと吐くものよりも、無意識に出るものの方がたちが悪い。 ため息を思わず吐きたくなるような心理状態だということだから。 そんな落合の様子を静かに見ていた龍樹は、今度は龍樹がため息まじりにこう問いかけた。 「…なんか言いたいことでもあるんですか?」 一瞬、時が止まる。 言いたいこと。 いや、聞きたいことならある。 Ωが嫌いって、本当? 聞きたいけれど、聞けない。 聞いて嫌いだと言われたら、どうしたらいいのかわからないからだ。 出会いはいいものとは言えなかったが、ここ最近の龍樹の様子を見る限り、嫌われているとは思えない。 むしろ好意的とさえ感じるほどだ。 それでも真意はわからない。 人間は簡単に嘘をつく。 落合はそれを痛いほどよく知っていた。 ーお前みたいな薄汚いΩ、友達なんかじゃねぇよバーカ! 記憶の片隅に押し込んだ映像が蘇る。 手酷い裏切りと共に浴びせられた言葉と嘲笑は、かつて親友だと思っていた人からのものだった。 それを振りはらいたくてふるふると頭を振ると、それを見ていた龍樹が勘違いしたらしく怪訝そうな顔をする。 龍樹と落合の関係はあくまで教師と生徒。 それも本来なら一言も話すことなく龍樹が卒業を迎えてもおかしくない位置付け。 だからこそ、お互いに踏み込んだ話ができない。 担任だったら。 学年主任だったら。 あるいは部活の顧問だったら。 そもそも同じ生徒同士、もしくは教師同士であったなら。 たらればの話ほど無意味なものはないなと、落合は自嘲の笑みをこぼした。 「なんにもないよ」 そう、何もない。 龍樹と自分の間には、何もない。 何かあったら困る。 今度は水樹の言葉が蘇る。 人は簡単に嘘を吐くが、きっと彼の言葉に嘘はない。 だとしたら、龍樹がΩ嫌いというのも嘘ではないのだろう。 こちらをじっと見つめてくる視線に耐えきれず、視線を逸らした。 もう嘘だってバレているかもしれない。バレていたとしても、追求されたくなかった。 龍樹に、運命を感じたほどの相手に問いただされたら、あっという間に瓦解することが目に見えていたから、視線を合わせることはできなかった。

ともだちにシェアしよう!