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第49話
落合には何度苛立ちを覚えたかわからない。
ハッキリしない態度に、TPOを弁えない発言。
偶然なのか仕組んでいるのか知らないが事あるごとに目の前に現れるのも。
けれど本気で嫌なら方法はあった。
会わない選択肢を取るのは簡単だった。
それをしなかったのは他ならぬ龍樹だ。
「気付いてた、俺だって」
小さな身体に不釣り合いな大きなバッグを持つ姿は微笑ましい。
先日共に課題に向かったあの時間は、本当に楽しかった。
体温の高いその手は、とても安心する。
「あんたが運命の番なんだって最初から気付いてた」
運命の番は互いに目が合った瞬間に通じ合う魂の番。
目が合う度にざわりと湧き上がったのは、魂の片割れへの呼応。
そのうなじに触れて突如起きた発情は、互いを求めるが故だ。
「なんで、俺なんですか?」
αであることが嫌だった。
Ωの発情期にあてられて獣みたいに暴れ狂う姿はまるで人としての尊厳を捨てた生き物みたいで。
自分もそうなる可能性を大いに秘めたαだということがたまらなく嫌だった。
ましてや、運命なんて。
意思に関係なく惹かれて欲するなんて。
それに抗えないだなんて。
自分がαであることを突きつけてくる運命なんて。
「俺は、運命なんて知りたくなかった」
ごめんなさい、ごめん、
その言葉を、誰に向かって言いたいのか。
龍樹自身わからなかった。
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