50 / 131
第50話
そおっと頬に温かい何かが触れて、それがとても心地良くて、龍樹は無意識にその手に擦り寄った。
龍樹が掴んでいない方の手で、乱れた髪をそっと直してくれている。
たった今自分が強姦したというのに、信じられないくらい優しい手つきだ。
「…龍樹くん、さっきの質問…今答えるね」
そう言われて、さっきの質問、が一体何を指すのか龍樹は一瞬わからなかった。
少しして思い至ったのは、行為の最中に投げた非道な問いだ。
ー運命感じた相手に犯されんの、どんな気持ち?
「あれは…」
「正直怖かったよ、怖かったけど…」
落合は龍樹に喋らせる気はないらしく、あー、とか、んー、とか、絶え間なく声を発して龍樹に話す隙を与えてくれない。
元来口下手なのに加えてぼうっとした頭では何も考えられず、ただただバカみたいに落合の次の言葉を待っていた。
「それ以上に、その、うれしい…かな?いや違うな、幸せ…かなぁ」
そしてそれは、予想を遥かに外れたもので。
「…先生、レイプ願望?変態?」
「ち、ちがっ!多分…」
変態?変態…うーん、変態…
と、やたらと悩んでしまった落合の顔は、痛々しいうなじとはだけた服装に反して何故か晴れやかだ。
龍樹が噛み付いた血だらけのうなじに大切そうにそっと触れると、なんとも満たされたような表情をする。
幸せだというのを、肯定するかのように。
「確かに怖かったけど、今、すごく満たされてる…すごく不思議な感じだ。なんていうか多分、多分だけど」
落合が泣き過ぎて腫れた瞼をしていることに気づいた。
腫れた瞼も、涙の跡が残る頬も、乱れた髪も、とても見れたものじゃないのに。
ふんわり微笑む姿は、とても綺麗だ。
「この先、俺はきっとこれだけで生きていける」
ともだちにシェアしよう!