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第50話

そおっと頬に温かい何かが触れて、それがとても心地良くて、龍樹は無意識にその手に擦り寄った。 龍樹が掴んでいない方の手で、乱れた髪をそっと直してくれている。 たった今自分が強姦したというのに、信じられないくらい優しい手つきだ。 「…龍樹くん、さっきの質問…今答えるね」 そう言われて、さっきの質問、が一体何を指すのか龍樹は一瞬わからなかった。 少しして思い至ったのは、行為の最中に投げた非道な問いだ。 ー運命感じた相手に犯されんの、どんな気持ち? 「あれは…」 「正直怖かったよ、怖かったけど…」 落合は龍樹に喋らせる気はないらしく、あー、とか、んー、とか、絶え間なく声を発して龍樹に話す隙を与えてくれない。 元来口下手なのに加えてぼうっとした頭では何も考えられず、ただただバカみたいに落合の次の言葉を待っていた。 「それ以上に、その、うれしい…かな?いや違うな、幸せ…かなぁ」 そしてそれは、予想を遥かに外れたもので。 「…先生、レイプ願望?変態?」 「ち、ちがっ!多分…」 変態?変態…うーん、変態… と、やたらと悩んでしまった落合の顔は、痛々しいうなじとはだけた服装に反して何故か晴れやかだ。 龍樹が噛み付いた血だらけのうなじに大切そうにそっと触れると、なんとも満たされたような表情をする。 幸せだというのを、肯定するかのように。 「確かに怖かったけど、今、すごく満たされてる…すごく不思議な感じだ。なんていうか多分、多分だけど」 落合が泣き過ぎて腫れた瞼をしていることに気づいた。 腫れた瞼も、涙の跡が残る頬も、乱れた髪も、とても見れたものじゃないのに。 ふんわり微笑む姿は、とても綺麗だ。 「この先、俺はきっとこれだけで生きていける」

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